「ところがや。菊丸、流産してもて。まあ、身体の調子が今一つやったし、菊丸のおかあちゃんが飛んできはって、うちらや江美ちゃんのうちに頭下げはって、長岡京の方らしいけど菊丸連れて帰りはって」
「バカ旦さんはどないしてん?」
千雪が聞いた。
「しばらくは憑き物が落ちたみたいにのそのそ仕事してはったみたいやけど、江美ちゃんのうちはそれこそ、うちン中に北風が吹いとるようなもんやったん」
「せえけど、江美ちゃん、三カ月やて」
怪訝そうに千雪が言った。
「せやねん、わかったんが今月の初めで、もうおっちゃんもおばちゃんも天地がひっくり返ったような嬉しがりようで、バカ旦さんのことなんかどうでもええ、江美ちゃんの子が一番やいう話で」
菊子もこれには嬉しそうだ。
「何や、ほな、一件落着かいな」
三田村が鼻で笑う。
「まさか、そない簡単にいくわけないやろ。今もバカ旦さんと江美ちゃんら親子の間には隙間風や」
「江美ちゃんは幸せそうに見えたけどな」
ぼそっと千雪が言った。
「そらそや。子どもは嬉しわ。まあ、子供ができてしまえば、もう、バカ旦さんに用はないし」
「ひえ、こわ」
三田村が肩をすくめる。
「でも今度よそに女とかいう話になったら、おっちゃんも黙ってないて思うけど」
「江美ちゃん、離婚して、今度こそ千雪、お前の出番やろ」
菊子の話に、三田村が千雪の背中をバシッと叩く。
「それこそそんな簡単に行くわけないやろ」
千雪が言うと、菊子が「せやね」と頷いた。
「うちが思うに、江美ちゃんは強い思うよ? 身体はそう強うないけど、精神的には母親になったら最強や」
ややあって、菊子はまた難しい顔をした。
「江美ちゃんのこともやけど、ほんまは、もっとあかんのんは、研二くんや」
はっとして千雪は菊子を見つめた。
「研二がどないしたん?」
相変わらず優しい穏やかさで研二は千雪を見つめていたはずだ。
「やから、あこはもう、あかんかも」
「どういうこっちゃ?」
三田村も身を乗り出した。
「真由子さん、二人目がでけて最初はよろこんどったんや。けど、段々、ウツっぽくなって、江美ちゃんやうちにまで、ほんまは研二とでけてるんやろ、みたいなこと言うて歩いて、ちょっとあの界隈では緘口令や」
「なんやね………それ………」
千雪はやっと言葉を吐きだした。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
