メリーゴーランド142

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 京助が帰ってきたのは夕方五時を回った頃だった。
「お帰り、早かったやん」
 シャワーを浴びた千雪はTシャツ一枚で傷を覆っていたビニール袋を取り外そうと格闘していた。
「何だ、その腕は?!」
 京助は上着を脱ぎしな千雪に駆け寄って腕を取り上げた。
「いったいやろ!」
 タイを緩めると、千雪の腕の包帯を外してしまい、傷のようすをみた京助は新しい包帯を丁寧に巻いていく。
「だから誰にやられたっつってっだろ?!」
「何か、わけわからんアジア人の男がやたらめったらナイフ振り回しよって、それがあたっただけや」
「ったくお前は! アスカを追ってたってやつか? 捕まったんじゃないのか?」
「そろそろ掴まってもええんやないかと思うんやけど」
「一から詳しく話せ」
「やから、アスカさんが所属事務所でキーホルダーを拾ったことが発端で」
 仕方なく、初めから話した。
「住居不法侵入、誘拐、障害、公務執行妨害、なんでもありだろ、罪名なんか」
「多分、四課とかひょっとしたらマトリとかも絡んで、指定暴力団のどれかを潰す算段しとんやないか? それかアジアの組織との麻薬ルートを突き止めたいとかで、タイミングをはかっとんやない?」
「どうでもいいが、とっとと捕まえて俺の部屋を返せって渋谷に言っておけ」
「ああ、それやけど、ひょっとしたら、京助の部屋やてバレたかもな、アスカさんに」
「なんだそれは」
「いやなんか、俺のことバレたみたいで」
「ほっとけ」
 京助は包帯を巻き終えると、京助はズボンも脱ぎ捨ててシャツ一枚になり、冷蔵庫から缶ビールを出して一気に飲んだ。
「十月だってのに、向こうはやたら暑い。それで来週末どうする?」
 椅子に腰を降ろし、ソファに座り込んでいる千雪に京助は尋ねた。
「ああ、研二も三田村も行くて。って、どこ行くん?」
「どっかの温泉も考えたが、軽井沢のうちの別荘、温泉引いているし、気兼ねはいらないからいいんじゃね?」
「お前んちの別荘、ニセコも温泉やなかったか? 贅沢もん!」
「いいじゃねぇか。うちの別荘、東洋グループの社員も利用できるようになってて、部屋も多いし」
「そうなんか? まあ、楽しみにしとくわ。せや、辻からまだ返事がないんやけど」
「まあ部屋はあるし、来週末までに決めればいいさ」
「わかった」
 とそこまでは物分かりのいい先輩と、先輩を頼りにしている後輩の何気ない会話、だったのだが。

 


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