一口食べれば十分美味いことがわかる。
それからは一気に食べ終えて、コーヒーを飲む。
アスカが京助のビーフシチューやタルトタタンにこんな美味しいものを食べているのかと言ったのを千雪は思い出す。
先に京助がでかけると、千雪があとからのそのそとスニーカーを履く。
今朝はジャージの色の組み合わせまであまり考えたくもなく、気分も悪いわけではないが上々という者でもない。
教授の講義の助手を務める千雪は、「おや、小林くん、今日は洒落たやつ履いてるね」などと宮島教授に言われて足元を見た。
うっかり一昨日履いていた有名ブランドのエアソールを履いてきてしまったらしい。
千雪はしまったと思ったものの、ハハハ、と笑ってごまかした。
まあ、たまにそんなものを履いていたからといって、ゲテモノ小林千雪フリークな連中にとっては面白くもないことだろう。
だが目ざとい佐久間は、「あ、今日の先輩、足元がクールですやん」などと、カツ丼の大盛を乗せたトレーを持ったまま、のたまった。
「今朝寝坊して、うっかり履いてきてもただけや」
千雪はおにぎりに卵焼き、ウインナという日本のランチ定番弁当を広げていた。
もちろん、おにぎりの具は二種類で、おかかに梅干しにとろろ昆布と、ゆかりが混ざった鮭とどちらも千雪の好きなもので、ふわっとした甘い卵焼きがまた美味い。
無論京助特製ランチである。
「はあ………、今日も美味そうでんな」
「美味いで」
「京助先輩のお手製ランチ。帰って来はったんでんな、先輩」
「ああ」
まだ何か言いたげな佐久間の口を遮ってくれたのは千雪の携帯だった。
連日渋谷の文字が表示されることに、千雪は眉をひそめる。
「はい、お疲れ様です」
今度こそは朗報で、アスカを襲った連中が特定されて逮捕、そこからうまい具合に中国マフィアの組織との大きな取引に踏み込み、とりあえずは検挙したという。
「それはまた、棚ぼたでしたね。アスカさんサマサマやないですか」
「まさしく。それとアスカさんの事務所の副社長とモデルのアリシアは大麻所持で捕まったよ。一応事務所所属のタレントも調べたが、アリシアと副社長以外はシロだった。アリシアの交友関係を今捜査しているところらしい」
これでアスカは家に帰っても大丈夫らしいが、しばらくホテルに滞在するという。
やはり一人では怖いのだろう。
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