ほんとなら菊子や桐島や井原やみんなも一緒ならと思わないでもないが、そううまい具合にはいかない。
菊子がたまにくれるラインによれば、江美子の夫はほんとに心を入れ替えたかのように真面目に仕事に勤しんでいるようだ。
沢口家でも江美子の代わりのように生まれてきた久美子の存在が人々の悲しみを癒してくれているらしい。
静かに少しずつ、あの町の人々も日常を取り戻しつつあるのだ。
いや、せやないと、江美ちゃんが怒る。
学食の片隅で千雪がほうっと大きく溜息を吐いたのをみすごさず、「大きな溜息だね、悩み事ならきくよ?」などと、たまたまそこにやってきた速水がトレーに天丼を乗せて千雪の向かいに座った。
今日は速水か。
口には出さずとも、千雪の剣呑な眼差しをまともに受けて、速水はちょっと仰け反った。
「おいおい、人が親切に言ってるのに、その対応はひどいなあ」
そう言いながら速水は、今度は千雪の広げている弁当に目をやった。
「根菜ときのこの煮物に、ハンバーグ、ブロッコリーに梅干しと、相変わらずお母さん手作りのお弁当美味そうだな、栄養バランスも考えてある」
汁がご飯に染みないよう、わざわざ根菜の煮物はタッパーを別にしてあるところなど、細部にまで配慮が行き届いている。
「夕べの残り物を詰めただけです」
「へえ、名探偵が詰めたの?」
「お母さんですけど」
すっかりお母さんにされている京助は、今日も解剖室で遺体と格闘中らしい。
「うっわあ、昭和のおかん弁当や」
続いて関西弁が速水の横に座った。
今日はトマトソースのスパゲッティ大盛だ。
「夕べの名探偵の食卓は、ハンバーグとブロッコリーのサラダに根菜の煮物だったらしい」
天丼に手をつけながら、京助と千雪の日常を見透かすように速水が言った。
余計なことを、と千雪は心の中で思う。
確かに、昨夜の夕食もまるで長年連れ添った夫婦のごとく、ワインと一緒に京助の美味い手料理をさほど会話もなく済ませ、食後はまったりと茶をすすりながら、千雪は京助の腕枕でソファで転寝をしていた。
「うっわあ、羨ましい限りや」
お前はうっわあしか語彙がないんか。
一応口に出さず、千雪は心の中で呟いた。
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