メリーゴーランド16

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「やからあこはもうあかんて。真由子さん、実家帰らはるらしいし。彼女、自滅、やないかな……可哀そうやけど、他の誰かを思うとる人と一緒におってもつらいだけやん」
 三田村の言葉に、菊子は断言するように言った。
「こっちがあかんかったらこっちやなんて。それになあ、俺に、和菓子屋の女将さんなんか務まる思うか?」
 千雪は自虐気味に笑う。
「アホなこと言わんとき。店と千雪くんらのこととは別の話やろ」
「やからそう簡単にはいかんて」
「俺もなあ……」
 ぽつりと三田村が口にすると、千雪と菊子が三田村をじっと見た。
「ウソやろ?」
 千雪は三田村の表情の重さについ口にした。
「夕べ喧嘩してもて………俺、プロポーズしてん」
「ほんまか? それで?」
 千雪も菊子も三田村の次の言葉を待った。
「したら、今は演奏旅行で手一杯で考えられへんて………」
 すると菊子は盛大なため息をついてソファの背もたれに凭れかかった。
「うーん、まあ、三田村くんらは、まだ、修復可能なとこやないの?」
「わかれへんで? 桐島とダメになったら、どや、菊子、俺の指輪もろてくれる?」
「いくら何でもうちに失礼やろ? 桐島さんに選んだ指輪の横流しとか」
 三田村は苦笑いする。
「大体うちかて、好きな人の一人や二人」
「おるんか?」
「まあ、またフラれてもたけどや」
 千雪も笑った。
「笑いごとやないわ、千雪くんにかかっとるんやで? 父兄を選ぶんか、それとも研二くんか」
「やから、そない簡単なことやないて……」
 と、千雪の携帯が鳴った。
 画面には京助の名前が浮かんでいる。
 夕べから何となくぎくしゃくしている。
 しつこいコールに、根負けして千雪は出た。
「何や」
「今どこにいる?」
「渋谷や」
「場所を言え。迎えにいく」
「来んでええ。三田村らと一緒やし」
「電車がもうなくなるだろ。三田村も送ってやる」
 仕方なく菊子の泊まるホテルを指定した。
「京助さん?」
 菊子が聞いた。
「迎えにくるて」
「父兄も千雪にベタ惚れやもんな」
 三田村が揶揄する。
「やっぱ、可哀そうや。研二くん」
 菊子がまた言った。
 自分の思いをここで吐露するつもりはない。
 だが、研二のことを好きだったのは自分なのに、と千雪は思う。
 あの時、ほな、真由子さんに押し切られよって付き合うてたいうことか?

 


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