まだバイクの免許を取りたての頃、研二を驚かせようとして黙って研二のアパートを訪ねた時、女性と一緒に出てきた研二は車でどこぞに走り去った。
呆然自失というのはあのことを言うのだろう。
もう研二は自分のことなど忘れたのだと。
は………、もう、昔の話やん。
今さらや。
一緒に東京の大学に進学しようと約束していたのに、千雪に何も言わずに金沢に行ったのは研二なのだ。
やっぱ、男の俺となんかどうなるもんでもないからな。
真由子さんの思い込みやろ。
誰ぞ他におるとか。
仮に、研二と真由子さんが別れることになって………、ほんまに、京助とあかんようになったとしても、やったら研二となんて、そないなことでけるはずないわ。
「まあ、な、なるようになる、いうこっちゃ」
三田村がボソリと言った。
「うちはそんなん嫌や。運命まかせみたいのんは! 運命とか切り開くもんやろ」
「さすが、菊千代姐さん、カッケー!」
「おちょくらんといて!」
揶揄する三田村を菊子が睨みつけた。
戻れるものなら。
あの頃に。
そしたら…………。
だが実際、時間は戻ることなどできないのだから。
菊子を送ってホテルに行くと、既に京助の車が待っていた。
「広尾だったな」
「すんまへん、助かります~」
三田村は後部座席に座り、京助に礼を言った。
「これ、こないだ見た車と違いますけど、いろいろ持ってはるんですね」
「二台だけだ。高校の同期が車の会社にいて、俺なら買えるだろうとかって押し付けてきた。乗ってくれるだけで宣伝になるからとかなんとか言って、安くはしてもらっている」
「へえ、それはいいですね。ってか普通フェラーリとか何台も買えませんよ」
「祖父が信託財産を残してくれたんで。それにさっきも言ったが、半額くらいで買って、新車が出ると、ダチが勝手に新しいのに換えるんだ」
「好きで換えてるんやと思うとった」
ナビシートで千雪が言った。
「嫌いじゃないが、日本じゃこんな車、走りにくいところがいくらもあるだろ」
「いいですね~、お金を出さなくても勝手に新しい車になるとか」
三田村が羨まし気に言った。
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