特に、千雪と研二は江美子とは幼い頃から一緒に育ったようなものだからこそ、ダメージもきつかったに違いないのだ。
千雪に対して、江美子のことを安易に問いただすこともできないでいる。
抱きしめても千雪の心の奥にまで踏み入ることはできない。
降ってわいたようなアスカの出現は、千雪にとって少しばかりの息抜きに放ったのではないかと思っていたのだが。
千雪と研二が親密そうに話しているのを気にかけていたのはそのアスカだ。
酔っぱらう前に仕事の打ち合わせをしておこうという秋山とテーブルに向かい合って座っていたのだが、どうしても視線は千雪と研二の方に向いていた。
「アスカさん、聞いてますか?」
「はい、聞いてます。東京に戻ったらしばらくオフなんてないんでしょ?」
「まあ、そうですね」
「しかも、そのうち二つは秋山さんが取ってきた仕事だし」
「何か問題でも?」
「いいえ、全然。むしろ、今までにないやりがいのありそうな仕事だから嬉しいし。沖縄でのCMロケもだけど、ちょい役でもドラマとかはこれからもいろいろやってみたいから」
「そうですか。わかりました。今後はそちらの方向でも進めていきます。演技をやりたいのであれば、青山プロダクションに移籍したことは正解だったと思いますよ。何しろ、鬼の工藤と異名を取る工藤さんがいますからね。ガンガン怒鳴られるのは覚悟しておいてください」
「今さらよ」
小林千雪がいるから移籍すると言って青山プロダクションに押し掛けた時、既に「そんな下らない理由で移籍だと? お茶らけたことをほざくんじゃない!」と雷を落とされた。
「工藤さんにはお茶らけていることかもしれないけど、私はてんでマジだから。OKしてくれるまでここ動かないから!」
業界でも工藤に雷を落とされた経験のある者は、その顔を見ただけで回れ右したくなるらしい。
そんな工藤に対して、アスカは一歩も引かなかった。
それこそハラスメントに敏感なこのご時世にあって、昭和のオヤジかという工藤のやり方は煙たがる人間もいないではないが、雷を落とされた者はむしろその後伸びていく人材となっている。
工藤が何も言わずスルーするのは、相手が言うべきことが見当たらない人材だからか、或いは愚にもつかない相手なのかどちらかである。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
