それこそたまたまだった。
風呂から上がった千雪は、カラオケ大会へと研二らを呼びに来たのだ。
カラオケは得意ではないが、せっかく佐久間や公一がセッティングしてくれたらしいし、ここはひとつ盛り上げてやらないと、と、研二らの部屋をノックしようとしたところ、わずかにドアが開いていて、千雪の思いもよらない話を三人が始めたため、そこに立ち竦んでいた。
一瞬、三人は押し黙った。
この展開は予想外だった。
「あっちゃ……。千雪、どっから聞いとったん?」
「怪我した話からや! 聞かれとうなかったらドアは締めとけや」
三人は千雪から明らかな憤りを感じた。
「ようも俺をハブにしよったな。俺はお前らのこと仲間や思うとったんやで?」
静かなセリフはかえって堪える。
「何もお前をハブにしよやなんて思うてたわけやないわ」
三田村がようやく弁解する。
「なら、なんや?」
「なんや……て……言われても………」
三田村は口ごもる。
何年も蚊帳の外に置かれていた事実は、千雪をよほど傷つけた。
だが同時に、それが研二の心根からくるものだということは嫌というほどわかった。
三田村も辻もそれを知っているのだ。
ただ、研二はそれを一言も語らない。
そんなん、優しいからなんかやないわ!
「研二、ほんまなんか? あの子らに何か言われよったから、金沢に変えたんか?」
千雪はまっすぐ研二を見た。
「千雪、もう、ずっと昔のことや。そんなん、忘れとったわ」
ふいに、江美子の声が頭の中に蘇った。
あれは、江美子が明日は結婚式だという日、いきなり千雪を訪ねてやってきた時のことだ。
江美子も後になって他の女の子と冗談染みて千雪のことを好きやった宣言をしたりしたものの、その時は結婚のことも自分の本心も何も語らず、ただ、研二が結婚したことを人づてに聞かされた千雪がショックな胸の内をふざけて薄情なヤツと口にしたことに対して、急に告げたのだ、研二は千雪が好きだったのだと。
「うちにはようわかっとった…研二くんはちっさい頃からずっと千雪くんのこと好きやったんや。というより、研二くんは千雪くんしか見てへんかったんよ」
だがとっくに研二が結婚した後のことで、もう、過去のことなのだと、千雪は聞き流すしかできなかった。
「せやな。お前にとってはもう、ずっと昔の、過去のことなんや、なんもかんも」
笑おうとして涙が勝手に零れ落ちた。
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