寝ぼけ眼でもそもそと千雪がパンをかじっているうちに、たったか食事を済ませ、シャワーを使い、着替えて先に部屋を出る。
「二度寝するなよ」
そう言いおいて、いつものようにドアを閉める。
ただ、そんな日常が続けばいいと、京助は思うだけだ。
京助が出て行ったドアを千雪はしばらくぼんやりと見つめていた。
コーヒーを飲み干すと少しばかり頭の中が動き始めた気がする。
はあ、と大きな溜息をついて、千雪は立ち上がった。
「なんやろな、俺。わけわからん」
自分だけが知らなかった事実を知らされた時、千雪は唐突に研二や三田村や辻との間に何か距離を感じてしまった。
特に研二とは幼い頃から何か絆のようなものがあるのだと思っていた。
手を伸ばせばすぐそこに研二の手があった。
無茶をするのはいつも千雪で、でもそれは研二が後ろで見ていてくれると思っていたからだ。
そしてそこにはちゃんと意思の疎通があったはずだ。
自分が知らないところで、研二に守られていた。
しかもあの怪我は家でDIYの最中にうっかり下手をした、と研二は言っていた。
ウソやったんや。
信じとったのに。
俺はそんなウソで護られとったわけか。
お前は何も言うてくれへんかったもんな。
急に一緒に東京行くのやめて金沢に変えたわけも。
桜陽の女の子に、お前がおったら俺に近づけんから離れ、言われたて、何やそれ。
そら、とうの昔のことや。
今さらや。
けど、初めから俺は蚊帳の外やったいうことやろうが。
俺はちゃんと言うてほしかったわ。
お前とちゃんと同じ目線で歩いとると思いたかった。
ガッカリしてもたからいうて、結局京助を頼りにしてまうとか、俺はアホやけどな。
考え込んでいた千雪は、はっと顔を上げた。
「あかんわ、もう、出な」
慌てて食器をシンクに持って行くと、手近なものを適当に適当に身に着け、部屋を出た。
千雪より後に研究室に駆け込んできたのは佐久間だった。
「寝坊してもて。ああ、夢から現実に戻って着てしもた感じですわ。また行きたいでんな、温泉」
佐久間の一言を聞きつけて、向かいの先輩助教の相原が「え、お前ら温泉行ったの? 一緒に?」と意外そうに佐久間の顔を見た。
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