だが、その表情が苦しそうなのを千雪は見て取った。
「あの程度で酔うてしもて、疲れとんのや、俺」
無理に笑みを浮かべようとして、千雪は失敗した。
その時、研二の携帯が鳴った。
ポケットから携帯を取り出すと、研二は電話に出た。
「おう、何や。今か? ほな、うち来たらええ。熱燗とつまみくらいあるで」
携帯を切ると、「三田村や。飲みたいんやと」と研二は苦笑いした。
「何や、あいつまた桐島さんとなんぞあったんちゃうか?」
千雪はそう言うと、「トイレ」と立ち上がった。
ぎくしゃくした空気を三田村の電話が断ち切った気がした。
「俺は、何言うてんのや。研二を混乱させるようなこと」
シンクの鏡に映った自分を見つめながら、一つ大きく息を吐いた。
リビングに戻ると、研二は食器を片付けにキッチンに立っていた。
「何か、てったおか?」
「ええ。座っとき。お前はどうする? ポカリかなんかにするか?」
「まだいけるわ」
千雪は声を大にして主張した。
チャイムが鳴ったので、千雪が玄関に向かった。
「お……千雪、おったんか」
三田村は驚いたような顔で千雪を見た。
「何や、その言い方。俺がおって悪いか」
「そんなこと言うてないやろ」
かなりくたびれたリーマンという表情で、三田村はリビングにやってきた。
「頼りねえよな、次期社長、潤ちゃんに務まるのか、やと!」
研二が食事に出した煮物やぶりの照り焼きなどを持ってくると、「うお、豪勢やん」と感動しながら、熱燗を手酌でくいくいあけていた三田村は、そのうち相当たまっていたらしいものを吐き出した。
「まあ、それはしょうがないやろ? ぱっと見、ひょろっとしたおぼっちゃんやから」
チーズや即席で研二が作ったキュウリの梅肉和えを口に運びながら、千雪も熱燗をお猪口に注ぐ。
「千雪、お前、やつらの回し者やな?」
「客観的意見を言うただけやろ」
二人のああ言えばこう言うを眺めながら、「さっきみたいにくたびれた顔して肩落として歩いとるからやろ」と研二が口を挟む。
「そうかて、メチャ疲れたんやで? それも部下の後始末や。ほんまに勝手なこと言いよって!」
「そんな些末なこと気にしとったら、経営者なんか務まらんやろ。黙って人に口を出させないような仕事して、堂々としよったらええんや」
千雪がケラケラ笑う。
「フン、言ってくれるやんか……て、こいつ、かなり酔うてる?」
三田村は研二を見た。
「せやな」
研二は頷いた。
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