メリーゴーランド218

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「誰と付き合おうと、人間同士や、不安になることかてあるわ。第一、俺は千雪の前から逃げたやつやで? そんなやつが今さらどの面さらしていうことや」
 三田村は頑なに自分を卑下する研二に、ため息をついた。
「ほんまにお前というやつは……」
 二人がそんな話をしているとも知らず、千雪は朝、研二に起こされてぼんやりと部屋を見回した。
「俺、寝てもうた?」
「ああ。三田村もさっき帰ったとこや。朝飯、食うやろ?」
 キッチンのダイニングテーブルに並ぶ、焼き鮭、卵焼き、みそ汁にご飯という、見るからに美味そうなメニューを見て、千雪は途端に腹が減った。
「え、このたくあん、研二が作ったんか?」
 小鉢に切ってあるたくあん漬けをポリポリと食べながら、千雪は尊敬の眼差しで研二を見た。
「まあ、何でも作ってみんと気が済まんたちやからな」
「美味いわ。けど東京風やな」
「スタッフに調理師の人がいてな、教わったんや」
「ほんまに美味い」
「相良さん、その人にな、懐石膳に使えるかまた試食してもらうわ」
 ゆっくり食べていたら八時近くなっていて、千雪は慌てた。
「ごちそうさん。また来るわ」
 軽くそう言って、千雪は研二の部屋をあとにした。
 バタバタと早足が遠ざかるのを見送ると、研二は苦笑した。
「……ほんまに、人の気も知らんと」
 アパートに駆け込んだ千雪は、適当なジャージ上下に着替え、また部屋を飛び出した。
「寝坊しはったんです?」
 研究室に息せき切って現れた千雪に、佐久間が言った。
「夕べ、研二と飲んでそのまんま寝てもうたんや」
「ああ、研二さん。和菓子屋さんやったっけ」
 ほわあと佐久間の方が眠そうな顔であくびをした。
 無精髭の京助と千雪が顔を合わせたのは昼だった。
 大盛カレーをぱくついている佐久間の向かいでうどんをすすっていた千雪は、ぬぼっと定食のトレーを持って佐久間の隣に座った京助がかなり疲れているらしいのを見て取った。
「また、モルグに籠っとったん?」
「ああ。火事で何体もだ……」
 聞いただけで千雪は、うっとうどんを喉に詰まらせそうになって何とか呑み込んだ。
「夕べはどこに行ってた?」
 京助は部屋を訪ねたらしいと、千雪はわかった。
「ああ、研二んとこ」
 京助の目が険しくなったのを、千雪は気づかなかった。

 


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