京助は伸びをし、千雪はあくびをして、まるで東京での続きのようにぼんやりした頭のまま入国審査を通り、荷物を受け取って税関を通過すると、東洋商事パリ支社に勤務する紫紀の日本人秘書で、野坂という若い青年が三人を迎えに来ていた。
「この度はおめでとうございます。こちらでは公私ともに紫紀さんにはお世話になっていますから、今回は私としても嬉しい限りです」
気のいい雰囲気の青年は頬を紅潮させながら笑った。
「この車、古いんですけど、パリじゃ、擦られるとか日常茶飯事なんで」
野坂の運転するベンツは、三人をホテルへと送り届けた。
「紫紀さんも今日はこのホテルにいらっしゃると思いますよ。ご親戚の皆さん、これでみんなお揃いになったはずです」
「ありがとうございます」
京助は野坂に礼を言い、三人はホテルの中に入っていった。
「五つ星ですよね、ここ。さすが」
長樹は言った。
「海外行っても、安宿ばっかしか泊まったことないから、嬉しいな」
「国境なき医師団でも活動してましたよね」
京助の言葉に、千雪は「そうなんですか」と尊敬の眼差しを向けた。
「オヤジには反対されて、即やめろ、即帰れとかずっと言われてましたけどね」
「長樹さん、ほんとにあのオヤジさんの息子とは思えないよな」
京助に言われると長樹は笑った。
「オヤジはあの通り、昔、京助くんが殴ったように、俗っぽいからね」
「勘弁してくださいよ、その話は。まだ高校生の青臭いガキだったんですから」
恐縮した京助に、長樹はまた笑い、「いやいや、俺も中学まではひょろっとしたもやしみたいなガキだったんだから」という。
「何が長樹さんを変えたんです?」
「たまたま、テレビで、ほら、亡くなった中村医師の活躍を見ててね。俺もこうしちゃいられないって」
「何か俺も、そういうんがええなあ」
千雪がボソリと言うと、「お前には無理無理」などと京助が即否定した。
「何でやねん!」
「鍛え方が違う」
小声で小競り合いをしながらも、三人それぞれの部屋に落ち着くと、千雪は京助と一緒に紫紀の部屋を訪れた。
「忙しいのにありがとう、千雪ちゃん」
ニコニコと紫紀が出迎えた。
「いえ」
何で紫紀さんまで、ちゃんづけやねん。
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