「あれ、後輩の彼女なんや。まあ、内容は真面目やったけどな」
「別にお前のこと知りゃしないんだろ? いいじゃないか。『トランタン』は上昇志向の女性向けって評判だぞ。だけじゃない、記事の内容は割とまともなものが多い」
「ほな、ここでええですか?」
仕方なく千雪は了承した。
「ああ、俺からそう伝えておく。打診だけでまだ先の話だ」
「ほな、よろしゅうに」
うっかり口にしたら、その後輩が昼にやたらうるさかったことまで思い出した。
「さっき、すんげえ美女が、京助先輩訪ねていかはったと思たら、それが理事長の姪御さんで、それが京助先輩の縁談の相手やて!」
京助は話を持ってきた九条館長には即断りを入れたと言っていたが、どうやら相手はまだその返事を鵜呑みにはしていないということのようだ。
理事長の姪とあって、噂はたちまち広まっていた。
何せ、数多の女性と浮名を流す大学きってのモテメンとかなんとか、マスコミでも取り上げられている京助のことだ。
噂が流れたその一端は、千雪とのコンビで警視庁に事件絡みでアドバイスをしたことがきっかけで、『名探偵コンビ』などと称され、しかもイケメンの東洋グループ御曹司とかなんとかもてはやされ、相手がまた有名モデルや華道家元の娘など、マスコミには格好のネタを提供していた。
学内でも無論女性の人気は高く、この縁談の速報にはあちこちで悔しがる女性の姿がみられたとかなんとか、佐久間は早口で千雪の前でしゃべりまくった。
「ウザい」
学食でうどんをすすっていた千雪はつい心の内を口にしていた。
学食はたいしたものはないが、化学調味料などの類をあまり使わないことは許せるのだが、何せまずい。
さすがに学食で本音は言わないが、しかしコンビニ弁当よりはマシ、と千雪は思っている。
だからとにかくうどんをすすり終えると、食器を返却し、カフェテリアへと向かう。
「今度こそ、年貢を納めるんやろか、先輩」
「何でついてくるんや?」
「え、コーヒーのまはるんですやろ?」
で、さらに向かいに座った佐久間は、自分もちょっと見ただけだが、理事長を訪ねた楚々とした超美人で、ぜひ綾小路さんにお会いしたいと言っていた、などということまで説明し終えた。
「先輩、どない思わはります?」
「は?」
「やから、京助先輩の縁談のことですがな」
もうええ加減にせいや。
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