「んなもん、俺に関係あれへん」
千雪が立ち上がったところへ京助があたふたやってくるのが見えた。
「断ったからな!」
京助が一言、千雪を見据えて言った。
「へえ。俺、これから青山プロダクションで打合せやから」
千雪はそれだけ言うと、たったか大学を後にした。
ウザいウザいウザいウザい!
背後で京助がまだ何か言っていた気がするが、無視してアパートに一旦帰り、そのまま乃木坂に来た。
「浮かない顔だな。京助と喧嘩でもしたのか?」
工藤がニヤリと笑った。
またぼんやりしていたらしい。
「煙草の灰が落ちますよ」
工藤が指に挟んだ煙草の灰が二センチ以上になっている。
「ワーカホリックのヘビースモーカー、突然死一直線やな」
工藤が落としそうになった灰を受け止めたのは鈴木さんの持っている灰皿だ。
「千雪さんのおっしゃる通りです。少しは自重なさってください」
「はい、肝に銘じます」
言葉づかいは柔らかだが、鈴木さんには何となく工藤も頭が上がらないらしい。
とりあえずその灰皿を受け取ると煙草をひねりつぶした。
「副流煙で周りの人にも害が及ぶって、知ってはります?」
千雪は追い打ちをかける。
「まあ、いろいろと思うようにならないことが多い世の中だからな」
含みを持った言い方で工藤は千雪を見た。
京助も最近ようやく本数を減らし始めたが、徹夜で論文とかいう事態になると、灰皿はてんこ盛りだ。
千雪の部屋では禁煙にしたにもかかわらず、窓を開けて吸っていたりする。
「煙草の何がうまいんやら」
「まあ、最近はどこも禁煙、禁煙だが、癖になってる人間はなかなかやめられないのさ」
工藤はフンと鼻で笑う。
「鈴木さん、とにかくこのオフィスは禁煙にしましょう。今時、煙草の煙が蔓延しているようなオフィスではまずいですからね」
工藤としては思い切った決断だが、鈴木さんはそれでも表情が硬いままだ。
「それはよろしゅうございますけど、工藤さん、ご自分のお部屋の本数が増えては意味がありませんよ」
「はい。気をつけます」
工藤はとりあえずそう言うと、ブリーフケースにタブレットを放り込み、立ち上がった。
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