メリーゴーランド25

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「また連絡する。京助とダメになったら、俺はいつでもOKだからな」
 千雪に嘯いて、工藤はたったかオフィスを出て行った。
「ほんまに、このままやったら早死にしはるわ。学生に限らず、社員入れはったらええのに」
 すると鈴木さんが、「それもやってみたんですよ。去年」と言う。
「若い人は仕事の内容もよくわからなかったり、今時の方は茶髪だったりするでしょ? それはよしとしても、文章も読めなかったりというのもちょっとね。少し年配の方は、やはり工藤さんが伯父様の名前を口にされるともう」
 そう言って鈴木さんは首を横に振った。
「即戦力だとヘッドハンティングとか?」
「同じ業界の方だと、工藤さんの評判を御存じでしょう? 小杉さんが、工藤さんの名前出すだけでビビる人が結構いるらしいっておっしゃってたわ。テレビ局にいらした時も、そんな感じだったそうだから」
 千雪は苦笑した。
「も、お手上げやないですか」
「仕事には厳しい方でしょうけど、怒鳴ったりするのもその方のことを思ってのことでしょう。それがわかる前に怖いが先に立ってしまうからだって、小杉さんが」
「けど、怒鳴りつけるとかそういう昭和なやり方、今時の若いやつにはパワハラやて思われるだけちがうかな」
「そうなんでしょうね……難しいわね」
 鈴木さんは少し寂しそうに言った。
「そのうち誰ぞ見つかりますて。あの怒鳴り声をモノともせえへんような骨のあるやつが」
 千雪は、ごちそう様でした、と立ち上がった。
「そうだといいんですけどね」
 乃木坂を後にした千雪は、まだ時間がありそうなので、そのまま九条美術館へと足を向けた。
 平日とあって、列をなすような混みようはなかったが、館内には割と人は入っていた。
 それでも一つ一つの作品を丁寧に見ていく余裕はあり、今更ながらに原夏緒という画家としての作品を客観的に見つめることができた。
 千雪にとっては無論母親であり、作品のモチーフなども家の周りのものや子供たちといった、千雪がよく知っているものがほとんどなため、こうして一つの作品として向き合うことがなかなかできなかった。
 評論家の誰かが、掘り起こされるべき作品群だ、と好意的な批評を新聞に載せていたが、今見ても、どの作品も素朴でピュアで楽し気な空間が広がっている。
 紫陽花の花びらに乗った雨粒のきれいさ、向日葵の色鮮やかさと子供らのはじける笑顔、そこにはまだ生きているかのような愛犬の無垢な瞳があり、知らず千雪の目尻から涙が零れ落ちた。
 研二と千雪、江美子と千雪、或いは三人が色々な画面の中で生きている。

 


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