自分のことになると千雪は皆目見当もつかない。
そうやな、やっぱ、京都に戻って執筆活動に専念するか。
そう考えた時、あ、と思う。
あの街にはもう、研二も江美子もいないのだと。
小夜ねえもパリに落ち着いて、研二も店が落ち着いて、そのうち真由子さんや子供らと暮らすようになったら、京助にも誰ぞええ人が見つかったら、その時は、せや、旅にでも出るかな。
考えてみたら一人で、何のしがらみもないわけやし、限りなく自由やん、俺。
何もかもが既定路線に思えた。
むしろ、俺が脱線したから、研二までも巻き込んだんやないか。
そんな風に考え始めると、深淵に足を突っ込んで行くように、何もかもがそこから派生した出来事のようにすら思えてくる。
だから京助も巻き込んでしまったのではないか。
江美子もまた………。
考えれば考える程、深い闇に沈んでいくような気がした。
「湯、はっといたぞ、風呂、まだだろ」
バスタオルで頭をガシガシ拭きながら髭も剃ったらしい京助が風呂から出てきた。
「今、入る」
冷蔵庫からビールを取り出してプルトップを開けている京助に、「京助、研二の店のオープニング、どないする?」と千雪は聞いた。
「ああ、いつだった?」
「土曜日の夕方からやて」
「だったら、横浜の学会から直接行くわ。兄貴も行くみたいなこと言ってたぞ」
千雪は驚いた。
「ほんまに? なんか、取材がいくつか入ってるていうてたで? 紫紀さんと小夜ねえ揃って顔出したら、またマスコミに何か書かれるんちゃう?」
「今更だろ。それに芝さんて、礼儀をわきまえないやつには容赦ないってよ」
「ふーん。ほんならまあな。理沙子さんも、佐久間の彼女の、取材に行くらしいで」
「ああ、お前を取材した雑誌の編集か」
「まあ、しゃあないわな。俺は三田村と一緒に顔出すつもりやけど」
「辻は来ないのか?」
「せや、決まったら連絡くれ言うてたんや」
千雪は風呂に入る前に、辻を携帯で呼び出した。
「ああ、研二の店のオープニング、土曜の夜やけど、行けるか?」
辻は仕事を切り上げてでも行くと言った。
風呂から上がると、京助はソファで寝ていた。
よほど疲れていたのだろう。
千雪は京助の疲労を滲ませた顔に少し同情しつつベッドに入って灯りを消した。
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