京助も帰ろうとしたのだが、大長や佐保子に呼び止められ、紫紀にも「たまにはいいだろう」と言われてとどまった。
ただ、身を翻すように立ち去った千雪の後ろ姿に、京助は何か嫌な予感がした。
それを消化できずに、家族や親戚連中とテーブルについていても、心ここにあらずだった。
携帯も切っている。
千雪が言うように、締め切りに追われているのだろうかとも思うのだが。
「京助は大学の方がやはり忙しいのか?」
「ええ。これからずっと忙しくなります」
大長への物言いが何となくつんけんとしてしまうのが否めない。
やれやれと言った顔で大長は今度は紫紀と小夜子に向き直った。
二人は年明けからパリに向かい、新居を片付けてから帰国し、大の終業式を待って一緒に渡欧することになっているという。
この三人はおそらくいい家族になるだろうことは予測できた。
大はまだ四年生だが、身体が大きいだけでなく、物ごとをよくわかっている。
パリでの新学期が始まるまで、フランス語を勉強することを宣言している。
涼は留学を機に性格が伸びやかになった。
兄も弟も意気揚々と人生を謳歌しているようだ。
京助には自分を人と比べるような考えはなかった。
少なくともこれまでは。
紫紀が以前京助に言った、お前は生きるのが下手だな、と。
そうかも知れない。
だが、それが俺だ。
今更変えようがない。
やはり、千雪のアパートに寄ってみるか。
一時間ほどで、やっと家族から解放された京助は、ホテルのエントランスからタクシーを飛ばした。
アパートの前でタクシーを停め、降りようとした京助だが、千雪の部屋に明かりがついているのを見て、思い直し、麻布の自分の部屋へとタクシーを向かわせた。
もし、本当に締め切りに追われているのであれば、あまりウザい存在にはなりたくはないからな。
京助は自分で自分を納得させた。
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