街には十一月終盤とはいえクリスマス商戦に勝利するべく華やかなイリュミネーションが溢れ、人々の足並みは着実に師走へと突入していった。
また今年も暮れようとしている。
千雪にとっては従姉の結婚という一大イベントが終わった後は、去年と同じように忙しなく、ありきたりの日々が続いていた。
ただ、披露宴が終わった後、何か、幸せの渦の中にいる自分に違和感を覚えて早々に立ち去ろうとした言い訳が今ここにきて、事実になり、さらに新人に毛が生えたくらいの自分が言うのはおこがましいと思いつつ、千雪はスランプから抜け出せなくなっていた。
どのみち三流探偵小説が書けようか書けまいが、やがてまた新人作家が現れて書けないやつなど踏みつけられて置き去りにされるだけだ。
担当編集者は相変わらず千雪とは一定の距離を置いていて、基本的なやり取り以外踏み込んでこない。
それは千雪にとってむしろ有難かったのだが、この編集者が千雪の小説をさほどいいと思っていないことはよくわかっていた。
趣味や嗜好もあろうが、これまで千雪がなんとか締め切りに間に合わせていたことで、高をくくっていただろうこともわかっている。
もちろん、編集者はおそらく売れなくなりたくなければ適当にやるだろう新人作家でしかも変人、変態くらいに思っていたのかも知れないが、千雪の方もあまり踏み込んでほしくはないために、変人と思われているのを利用して、携帯を持つのは嫌いだから持っていないなどと嘘を言っていた。
その嘘を信じていたかどうかはわからないが、編集者はアパートまでやって来ても絶対中には入らなかった。
一体部屋の中がどうなっていると思っていたのやら、と千雪は思う。
たまにエッセイを書いていた女性雑誌の方は、何人かの作家にランダムにオファーするという形式だったが、こちらの編集者は少なくともまだ文章には好感を持っていてくれたことは電話のやり取りだけでもわかる。
ただしこちらも必要以上には近づいてこなかった。
担当者に、少し時間が欲しいと言ってみると、女性編集者は、「わかりました。先生の復活された時にで結構ですので、あがりましたらお送りください」と言った。
月刊誌で二号ほどは前倒しでオファーしているらしく、予定していた号には他の作家を回すと言い、復活されることをお待ちしております、と付け加えた。
それは常套句であり、おそらく次はないとは安易に予想はついた。
それでも仕方がなかった。
書けないのだ。
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