推理小説の方は、今回短編で、次回から連載ということになっていたが、おそらくその連載の話は没になるだろうことも予想できた。
もし全く書けなければ、他の作家が取って代わるだろう。
何度目かの電話のやり取りで、編集者は強い口調でそんなようなことを言った。
わかっていても書けなかった。
さらにこの時期はやはり教授の論文の手伝いに駆り出されたが、こちらはやれと言われたことをやるだけだったので、機械的にこなすことはできた。
京助の方もこの時期何故か事件が倍増し、忙しくなる。
それでもたまにアパートを覗いて、チンするだけの食料を冷凍庫に置いて行ってくれるのは、千雪にとって有難いやら申し訳ないやらだった。
書けないことは伝えてあった。
だから部屋を訪れる回数も少なくなったとも思われたが、その頃、また例のモデルが来日していたことは、ネットでも取り上げられていたのを、佐久間がわざわざ見せてくれた。
学内で時折ミスT大の伊藤と京助が言葉を交わしているのを見かけたこともあり、二人が噂になっていることも佐久間に言われなくても千雪の耳にも届いていた。
「ご苦労様。有難う、毎度のことながら助かったよ。自分の原稿もあったろうに、時間を取らせて申し訳なかったね」
宮島教授が人の好さげな笑みを浮かべて、すまなそうに言った。
教授の手伝いが終われば原稿に専念できるところだったが、千雪は、これがぽっかり穴が空くということなのかと思い知るほどの虚無感に襲われた。
何をしたらいいのかわからない。
何もできない。
おそらく軽いウツ、なのだろうと勝手に判断した。
こんな時でも速水などには今の自分を知られたくはない。
すると、ポケットの携帯が鳴った。
「ドラマの件で少しオフィスに寄れないか」
青山プロダクションの工藤からだったが、千雪はまるで救いの手が差し伸べられたかのように思った。
すぐに行けると伝え、千雪はそそくさとアパートに戻った。
「忙しいんだろ? 大丈夫か」
鈴木さんが入れてくれたミルクティを一口のみ、千雪がほっと一息ついていると、電話を終えた工藤がデスクから立ち上がった。
「平気です」
工藤は千雪の向かいに座り、ジロリと千雪を見つめた。
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