いつぞや研二が千雪に試食させた、菓子とお抹茶付きという軽い茶懐石膳が千五百円というお手頃な値段で食べられるらしい。
菓子はお任せ、十食限定となっている。
「ランチの時間で、早いもん勝ちやで」
いつの間にか研二が傍に立っていた。
おそらく千雪を見かけた誰かが知らせてくれたのだろう。
「十食なんてあっという間やろ」
「お蔭さんでえらい好評で、並んでくれはるお客さんもあるし」
研二がいつになくドヤ顔だ。
「そら、よかった」
くすりと笑って千雪は、抹茶クリームあんみつにコーヒーを頼んだ。
「三田村と待ち合わせやねん」
「へえ、三田村きたら呼んでや」
「おう」
千雪が座っているテーブル席は、ガラス越しに通路を行き交う人や向かいのきれいな小物が並ぶショップが見える。
ふと、視線を感じてそちらの方に目を向けるとベビーカーの横に立つ一人の女性がいて、一瞬目が合った気がした。
あれ?
どこかで見た気がした。
まさか…………。
何かが胸の内でざわめき始めている。
その予感はあたったようだ。
ややあって研二が現れ、その女性と何か話している。
真由子さん?
千雪は彼女を見たことがあるだけで、タイミングが悪かったのかどうか紹介はされていない。
だから彼女は千雪のことを知らないはずだった。
でも、何だろう、ガラスの向こうからじっと自分を見ていた気がする。
やがて女性スタッフが抹茶クリームあんみつを運んできた。
まだ、研二と真由子は何やら話している。
ふと、研二がベビーカーを覗き込み、微笑みかけるのが見えた。
じっと千雪が見ていると、また真由子と視線が合った気がして、千雪は慌てて目をそらし、あんみつにスプーンを入れた。
そうか、案外、研二が真由子さんとよりを戻すのは早いのかも知れない。
可愛い子供が二人もいるのだ、親子で暮らせることが一番望ましいに決まっている。
真由子も落ち着いたから上京してきたのだろう。
新しい東京の店も気になっていたのだろうし、何しろ全国ネットでこの店の宣伝をしてくれたようなものだ、金沢でもおそらく真由子は目にしたに違いない。
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