海が見たいと言い出したのは千雪だった。
その日、研二の休みの日で、朝はゆっくり起きて、千雪は研二に卵焼きの作り方を教わっていた。
箸で器用に卵を巻いていくのを見ながら、千雪も挑戦してみるがぐちゃっとなるだけでうまくいかない。
「まあ、最初からうまくいくわけないし、練習やな」
研二は笑う。
「ちぇ……京助なんかもこんなん、簡単に作ってくれよったけど、こんな難しいもんなんか」
「目玉焼きとかから始めたらええ。オムレツとかもぐちゃぐちゃッとやって後で固めたらええやつやし」
「ふーん」
ちょっとむすっとした千雪の頭を研二はぐしゃっと掻きまわす。
「ええから、もう鮭も焼けたし、ほな、ご飯よそっといて」
「よっしゃ」
千雪は何やら気合を入れて炊飯器を開けた。
そんな千雪を研二はくすりと笑う。
鮭に卵焼き、味噌汁にご飯に漬物。
日本人の朝の定番メニューを前にして二人はいただきます、と合唱して食べ始める。
「こんな朝食、毎朝作っとったら、毎朝遅刻や」
千雪はほくほくと湯気のあがるご飯を口に頬張りながら言った。
「せやな、急ぐときは目玉焼きにトースト、サラダでええんやないか? サラダもカットされたやつスーパーにあるし、それを使うたらええ」
「え、そんなんあるんか?」
千雪は真剣に驚く。
「ほんまにスーパーもあんまり行ったことないんやな。コンビニにも置いてあるで? カット野菜」
「そうなん? 俺、弁当とかドリンクくらいしか見てないし」
「まあ、おいおいでええんやないか?」
ゆっくりと朝食を済ませ、コーヒーを飲んでいる時に、どこかへ行こうかと研二が言い、今、研二の運転でアウディのステーションワゴンは一三四号線を江の島へと走っていた。
助手席の千雪は海が見えてくると、「海や!」と子供のように笑った。
研二の車はもちろん中古車だ。
中古車ディーラーをしている辻に車を調達したいと言ったのが運の尽き、仕事にも使いたいし物を運ぶのに都合がいいバンがいいと研二は言ったつもりなのだが、お勧めはこれだとこんな車を買わされたというわけだ。
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