「十分荷物も運べるやろ? 飽きたらまた取り換えればええて」
売り上げに協力してくれといわれると、研二も苦笑いで承諾せざるを得なかった。
「辻らしいな。ええやん、飽きるまで乗ったら。カッコええで? 研二」
千雪は笑う。
「からかうんやない」
ハンドルを握りながら研二は千雪をチラリと見やる。
笑っている千雪は何の屈託もないように見える。
だが、時折垣間見える表情が研二は気になっていた。
何も考えていないような見ていないような視線。
それがどこか凍てついているようにさえ感じるのは何だろうと。
「どうする? 八景島とか行ってみるか?」
「……うん……なんや、あんまり人がおるとこやない方がええな」
「せっかくやから海に降りてみるか?」
「うん」
スピードを落として、研二は海に降りられそうなところを探した。
「せや、出る時、メシ食えるとこだけ探しとこ思て、そこ海が見える店やねんて」
「フーン」
研二は江の島の手前でUターンすると、湘南バイパスを戻り始めた。
「あ、あこや」
研二は『マーレ』という看板の店に近づくと、駐車場に車を入れた。
「ここ、海まで歩いて行けるんやて」
「へえ」
二人は店に入るより先に海へと続く階段を降りて行った。
海はもう冬の色をして、冷たい風が二人に吹き付ける。
「やっぱ寒いな、この時期」
研二はセーターの上にダウンジャケットを着こんでいるが、顔に当たる風がきつい。
千雪は研二に借りたセーターの上に黒のロングコートだ。
「この感じ、何か好きや」
押し寄せる波は若干強く思えた。
「このクソ寒いんがか?」
研二が苦笑する。
「ほんまや、このクソ寒いのに、ウインドサーフィンとかやっとる」
海の中にちらほら、ウインドサーファーの姿があった。
「千雪、戻るで。風邪引くし」
研二に促されてぼんやり海を見ていた千雪は踵を返す。
「何かあったかいもんでも飲も」
「うん」
店内はブルーホワイトの壁が明るく、窓には海が広がっていた。
二時を過ぎているせいか混んではいなかったが、カップルが多い。
研二はデートスポットで検索したわけではないが、この店なら当然と頷ける。
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