メリーゴーランド280

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 ここのところ毎日のように京助は大学から戻るといつものバーに寄ってバーボンを何杯か飲んでから部屋に帰るようになっていた。
 研究室の仕事が忙しいので、深酒をするわけにはいかないことはよくわかっていたが、一杯や二杯飲まないとやってられないという心境なのは致し方なかった。
 小気味よいサックスが流れるこのバーは、速水や理香や昔の仲間たちのたまり場だが、千雪が現れてからは滅多に顔を出さなかった。
 というより千雪をあまり連れてきたくはなかったのだが、夏に一度連れてきた時には速水や理香が案の定現れて何やかやと絡むので、千雪はイラついていた。
 特にいつぞや京助の部屋で速水と鉢合わせして以来、速水を千雪は嫌っている。
 別に千雪と速水を仲良くさせようなどという気はさらさらないが、京助からすれば、速水は口は悪いし悪友かも知れないがそれほど悪人ではない男なのだが、その時だけでなく千雪の癇に障ることばかりをやったらしい。
 こうして酒を呷っていても頭の中を占めるのは千雪のことで、別れたとか千雪がいないとかすらウソのようにしか思えない。
 アパートへ行けば、いつものように千雪はソファで転寝をしているか、食べることも忘れて原稿に向っているかで、また食事を作ってやらなくてはなどとふと思ってしまう。
 しかし、もしや帰ってこないとも限らないと、千雪のアパートに出向いて食事を作り置きして冷蔵庫にいれておいたりしたのだが、大学で別れて以来帰っていないらしく、結局作り置きしたものを捨てるだけだった。
 おそらく研二の部屋にいるはずで、逢おうと思えば訪ねて行けば逢えるかもしれない。
 だが、千雪を無理やり連れ戻したところで、どうにもならないのはわかっている。
 研二のもとに行くと決めて出て行ったのなら、もはや俺の出る幕はないということだ。
 とはいえ、先日の小夜子の話も気にならないではない。
 それに、書けないというのはいったい何が原因なのだろうと思いを巡らすのだが、当人がいないのでは何もわからないし、仮に当人がいたとしても軽々しく問いただすわけにも行かないだろう。
 京助にしては悠長に構えている気もしないではないが、少し時間をおかなければならないだろうと、学会が間近なのを理由にイラつく神経に蓋をした。
「やだ、京助、何かうらぶれてるわよ」
 聞きなれた声に眉を顰めると、隣に理香が腰を降ろした。

 


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