メリーゴーランド281

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「何飲んでるの? あたしにも同じのちょうだい」
 あまり話したくもない時に、よりによって話したくない女が現れ、京助は渋面のままグラスを空けた。
「まさかほんとに別れちゃったんじゃないわよね? 京助あんなに一生懸命だったのに」
 理香はいっそすがすがしいほどにはっきりと口にしてくれる。
「ウソでしょ? また私たちに会わせたせいだとか言わないでよね?」
 高い声がキンキンと耳につく。
 京助は立ち上がり、「何とか言いなさいよ、ちょっと、京助」と喚く理香を残して店を出た。
「いやだ、もう、何? あれ! 重症もいいとこじゃない!」
 理香は一人文句を言うと、ふうっとため息をついた。
 法学部教授に確かめたという速水からも千雪が大学をずっと休んでいるらしいと聞いている。
「何がどうしちゃったのかしら。いいわ、こうなったらちょっと動いてみようじゃないの」
 京助が昔、恋人をこの店に連れて来たばかりに別れることになったというジンクスのような話が気になってはいたのだ。
 早速翌日理香は行動をおこした。
 大和屋に小夜子を訪ねたのだ。
 応対した店の男性スタッフに正月用の訪問着を誂えたいと言い、理香はこれみよがしに名刺を取り出しながら言った。
「わたくし華道五所乃尾流の五所乃尾理香と申しますけど、小夜子さん、今日はいらっしゃるかしら?」
 スタッフはお待ちくださいというと奥へさがり、戻ってくると個室の方に理香を案内した。
「ただ今参りますので、少々お待ちくださいませ」
 羽織っていたフェイクファーの短いジャケットを脱ぐと、黒のスーツ、ハードウエーブのショートボブは強めの赤のルージュを引いたくっきりした顔の理香をさらに派手にみせている。
 お茶を運ばれてから数分後に、小夜子が現れた。
「お待たせいたしました。五所乃尾様」
 今日の小夜子はベージュのスーツだが、理香とは対照的な柔らかな華やかさがあった。
「あら、理香で結構ですわ。小夜子さん、お忙しいところごめんなさい、年明けに初生けもあるし、あちこちの初釜にお声がかかっているものですから、やっぱり一着は作っておいた方がいいかと思って」
 スタッフが理香の希望に合わせたいくつかの訪問着用の布地と帯を持って現れ、鏡の前であれがいいこれがいいと選ぶまでに時間がかかった。


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