結局訪問着二着と帯二本に落ち着いて、草履やバッグなどもついでに誂えてもらうことになった。
「どちらも紋を入れましょうね。二十日頃までにお届けでよろしいでしょうか?」
「ええ、急がないから年明けに間に合えば」
やっと決まったところで、またお茶が運ばれ、ありきたりな話をしたあと、理香は聞いた。
「そういえば千雪さんもお忙しいのかしら?」
「ええ、ここしばらく連絡もつかないから、京助さんに聞いたら、新作にかかってて当分は構わない方がいいんですって」
あらら、小夜子さん知らないんだ。
理香はややあってから切り出した。
「だったら、千雪さんには当分会えないかしら。前に、華道家を小説に使いたいとかおっしゃってたから」
理香は適当な言い訳を口にした。
「あら、そうなんですの? 多分、原稿があがらないうちは電話にも出てくれないんじゃないかとおもいますけど、とりあえず、一度連絡を取ってみてからお知らせしますね」
小夜子も年明けからパリに行く予定ということもあるのか、応対中にも何度か連絡が入り、忙しそうにしていた。
「うーん、小夜子さんでもダメかもね~。って、千雪ちゃんたらどこにいるのかしら」
千雪のことを聞きたいがために、訪問着を作るという口実で小夜子に会ったのだが、思いのほかいいものができそうだった。
それはそれで満足して大和屋を出た理香ではあるが、肝心の千雪の居所はとんとつかめそうになかった。
京助に正面切って聞いたところで口を割りそうにないのはわかっているし、何か策はないかしら、と理香はしばしその場で思案に暮れていた。
「あ、そうだ、あの子の店、近くよね」
理香が思いついたのは研二の店だ。
オープニングパーティのようすがキー局のワイドショーなどでも取り上げられ、雑誌の取材などもあって、店は順風満帆の出航となったようだ。
「それにあの子、只者じゃない雰囲気で何か、現代の武士みたいなカッコよさなのよね」
ただし、かなり硬派で、その辺の女が言い寄ってもおいそれとは目に止めてもくれなさそうだ。
「千雪ちゃんの同級生、結構みんなクールなのよね。それに仲良かったから、あの子なら何か知ってるかも」
思いついたらとばかりに理香は早速タクシーを停めて芝ビルに向かった。
『やさか』はちょうど昼からの賑わいが過ぎ、少し人の波がおさまった頃だった。
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