「黒岩研二さん、いらっしゃるかしら? 五所乃尾理香と伝えていただけば」
テーブル席に案内された理香は、抹茶と今日の和菓子を頼んでからスタッフに聞いた。
「お久しぶりです」
しばらくして本人がトレーを掲げて現れた。
「すごい評判いいわね、このお店。スタッフもスタイリッシュで和菓子処のイメージをいい意味で裏切ってるわ」
抹茶と練り菓子を丁寧に理香の前に置くと、「ありがとうございます」と研二は言った。
「今、小夜子さんのところで、初釜や初生け用の訪問着を誂えていただいたの。出来上がりが楽しみ」
「そうですか」
研二は微笑んだ。
接客業なんだからなるべく笑え、とは千雪の命令だ。
とはいっても意識して笑うのに研二は苦労している。
そこへいくと、理香は屈託がなく笑うので、研二も素直に笑みが浮かぶ。
「そうそう、初生けの時のお茶用に、今からでもお菓子をお願いできるかしら?」
「もちろん承ります」
「よかったわ。そんなにたくさんじゃないけど、お任せするから何種類か取り混ぜて百個くらい」
「わかりました。お日にちとどこにお届けすればええか、お知らせ頂ければ」
「あら、忙しいんじゃないの? いいわよ、誰かに取りに来てもらうから」
「わかりました。おおきに、ありがとうございます」
そう言って厨房に戻ろうとした研二に、理香は呼びかけた。
「あ、そうだ、研二さん、千雪ちゃん、今どこにいるか知ってる?」
研二はややあってから、徐に言った。
「千雪なら、今、あそこにいてますけど」
「え?」
理香は思わず立ち上がると、研二の目線の先を振り返った。
確かに奥の角の席で、ぼんやりガラス越しに店の外に目を向けているのは千雪である。
なんだ、こんなところにいたわけ?
散々千雪と何とか会えないものかと四苦八苦したのに、見事に肩透かしを食らった感じだ。
「ごゆっくり」
研二が去ったところで、すぐにも席を替わろうかとは思ったものの、ぼんやりしているようすの千雪は、まだ動かないと見た理香は、まず、菓子を食べ、抹茶をいただいた。
「ほんと、文句なく美味しいわね」
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