「いいえ………ごめんなさい、お騒がせしてしまったようね」
理香は自分の席に戻り、バッグを持ってレジに向かった。
「それじゃ、またご連絡します。よろしくお願いしますね」
きりりとした表情で研二にそう言うと、店を出た。
「ありがとうございました」
理香を見送った研二も気になってはいたが、忙しくなる時間に備えて厨房に戻っていった。
店を出たが、既に千雪の姿はなかったが、理香はふと振り返った。
誰も行方をしらなかったはずの千雪は研二の店にいたのだ。
「離婚して、上京したって言ってたわよね」
軽井沢で千雪は同級生らとよく一緒にいたようだが、そういえば何かというと研二が千雪を気にかけていたのを、理香は思い出した。
「まさか…ね」
どうしても千雪の態度に納得がいかなかった。
「理香さんが何とかしたってやったらええんちゃいます? 何よそれ!」
ついつい口にしてまた怒りが舞い戻る。
「私で何とかなるんならとっくよ! そりゃ、京助に千雪ちゃんとのことを聞いて、ちょっとは意地悪なこと言ったかもしれないわよ? だけどあんなのジョークに決まってるじゃない! 大体、千雪ちゃんの方がずっときっついこと言ってくれたくせにさ」
お互いよく知り過ぎていて今さら京助とどうこうとかなんてないわよ。
だが、それこそ理香は、京助が昔の恋愛でどれだけか傷ついていたこともよく知っている。
京助とは住む世界が違うからとフラれたのだと、あの時も京助は荒れていた。
お前らに会わせるんじゃなかった、と京助は怒っていたけど。
プラダのバッグやなんかのことを彼女の前で話しちゃいけなかったとか?
だって別に、いつもの会話だったのよ?
その辺で古い記憶はおいといて、理香の思考は千雪へと向いた。
あ、そういえば、千雪ちゃんて男だったっけ。
しいて引っかかるとすれば、それ?
でも今さらよね?
バッグの中の携帯が鳴ったので、理香は答えの出ない思考を保留にしてタクシーを拾った。
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