入学したばかりの頃、黒縁メガネをかけ、鳥の巣のように髪を引っ掻き回して通学してみると、見事に人が寄ってこないばかりか、避けてくれるようになったことに、千雪はしてやったりと悦に入っていた。
変人ぽいのは千雪だけでなく、見るからに暗そうな常に一人でいるような学生などいくらもいたし、最初はさほど目立つわけではなかった。
図書館には読みたい本は嫌というほどあるし、残念ながらここの剣道部はあまりに弱小で入りたいとは思わなかった。
どこか道場を見つけて通えばいいかと思っていたくらいで、他のサークルには全く興味がなかったが、クラブハウスの奥の奥、その片隅にひっそりと存在していたのが推理小説研究会なる同好会だ。
どんなものかとドアをノックしてみると、いかにも本の虫というようなオタク系の男子が数名、座って本を読んでいた。
だから千雪が入会を申し出ても拒否られることもなく、いつの間にかその中に馴染んでいた。
それにただひたすら本を読んでいたわけではない、誰かが自分の好きな作家の作品について話を向ければ、たちまち意見が飛び交った。
文章を書いている者もいた。
純粋に小説が好きな面々にとって、学生の容姿など何の問題もなかったから、千雪にとっても居心地のいい場所となった。
そんな存在すら知る人ぞ知るといった地味な研究会に、ある時思い切り場違いじゃないかというような目立つ学生が顔を見せ、いきなり千雪に向って、「お前が小林千雪か?」と名指ししたのだ。
聞けばK大で一年、千雪の父親である国文学の小林教授に師事したが、親の病気でこの大学に入り直したというその学生は綾小路京助と名乗った。
教授から息子がこの大学に入ったことを聞いたので探していたらしい。
流れで研究会に籍を置いたものの、推理小説などせいぜい「シャーロックホームズの冒険」なる子供向けの小説くらいしか読んだことがないという京助はちょくちょく研究会を訪れるようになり千雪と言葉を交わすようになった。
千雪が読んでいる本をチェックしているのか、次に現れる時京助はその本を読んでくるので、自然にその本の話になった。
体育会系の空手部員でもあったので、たまに道着のまま顔を出すこともあった。
「アヤノコウジ? アヤコウジ?」
「京助でいい」
気がつくというか、世話好きというか、コーヒーが欲しいなと思うと、京助が目の前に紙コップのコーヒーを置く。
そのうち、学外でも千雪をあちこち連れまわした。
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