ダイニングテーブルで二人向かい合って食事を取るようになって何日過ぎたかすら千雪は数えていなかった。
ただこうして研二と穏やかに過ごしているのが心地よい。
何か、昔の夢、みとったんか。
京助がやけにリアルだったな、などと思う。
「明日は俺がご飯作っとく」
研二は苦笑して「やめとき」と即答だ。
「カレーならできる。もちろん市販のヤツやで。合宿でも散々やらされたし」
「フーン、ほな、炊飯器はセットしとくよって、作ってみ」
「まかせとき」
千雪は得意げに言った。
前に、どこかで作ったな、カレー。
記憶を辿ると、いつだったか、京助がいきなり北海道に行くて言い出して。
そや、山小屋で食事作ってくれとった身重の人が、倒れはって。
京助が病院運んだんやった。
唐突に思い出した記憶は、そのまま江美子と重なった。
あの時、あの人は助かったのに。
すっと血の気が引いたような気がした。
「千雪、どないした?」
急に箸を持ったまま固まった千雪を研二は怪訝な顔で見つめた。
「ああ、いや、何でも………」
千雪は思い出したようにご飯を呑み込んだ。
「お前は疲れとるんや。無理に作ることないから、読みたい本でも読んどき」
「平気や。カレーくらいできるわ。鍋をダメにしたりせえへん」
納得いかない表情で研二は千雪をみたが、梃子でも動かない千雪の頑固さはよく知っている。
「わかったわかった。くれぐれも無理せんとき」
研二はフッと笑う。
「この大根、よう味が染みて美味いわ」
「『大黒屋』の若旦さんにコツを教えてもろたんや」
『大黒屋』は京都の『やさか』に近い老舗の料亭で、若旦さんというのはどこかの料亭に修行に行っていると聞いた高校の先輩にあたる人で、子供の頃は千雪も一緒に遊んだりもした。
「武嗣さんか? 店に戻らはったん?」
「去年店に戻らはって、今は武嗣さん副料理長や」
「そうか」
町も人も、そうやって変わっていくのだ。
さっき久しぶりに菊子からラインが入っていた。
『久美ちゃん、どんどん大きなるわ』
眠っている赤ちゃんの画像は江美子の母に抱かれた久美子だ。
「ほんまや、大きいなった」
研二に見せると、自然に笑みが浮かぶ。
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