メリーゴーランド290

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「研二も子供に逢いたいんちゃう?」
 先日子供二人を連れて現れた真由子は、一泊しただけで帰ったらしいから、仕事もあったし、研二はわずかな時間しか子供と会えなかったはずだ。
「まあ、な。写真をコンスタントにネットで送ってくれるし、今はとにかく仕事せんとな」
 研二は淡々と言ってから、微笑んだ。
「お前が、そんな心配してくれんかてええんやで?」
 それを聞くと、千雪は情けなさげな顔をした。
「それより、今日、理香さんとなんぞあったんか?」
「何もないで」
 千雪はごまかした。
「言い争っとったみたいやて、スタッフから聞いた」
 千雪は眉を顰め、ちょっと首を傾げた。
「ちょっと……前に、小説に華道家を書いてみようかみたいなこと? 言うたらしいんやけど」
「小説に?」
「今、ちょっと疲れてて書けへん言うたら、何やおもろなかったみたいで」
 千雪は京助のことはスパッと抜いて話した。
「それだけなんか?」
「せや。いつになったら書けるようになるて聞かはるから、当分、書けないて言うたら、怒らはって」
 研二は千雪の言葉通りに受け取ったわけではなかったが、千雪が書けないということは非常に気がかりだった。
 だが、それ以上追及してはかえって千雪を追い詰めるような気がした。
「こないだ、真由子が店に来たときな」
 ボソリと云う研二を千雪は見つめた。
「夜は、ホテルで久しぶりに真由子とも少し話したんやけどな。真由子が」
 黙って千雪は研二の言葉を待った。
「俺の好きなんが誰かわかったいうて」
「え?」
「店でお前を見かけたからか知れん。何やすっきりしたような顔をしとった」
 あの時、千雪は真由子と目が合った気がしたのを思い出した。
 俺、そんな、わかりやすい顔しとったんやろか。
「きっかけは何にせよ、子どもらは大切にしたいし、真由子には自分の思うような人生を送ってほしい思うとるけど、俺と真由子はもうどうにもならん」
 研二は潔い笑顔を見せた。
「研二、俺はここにおるから」
「千雪……」
 研二は千雪を抱きしめた。
「俺も、ここにおるからな、千雪」
「うん………」 
 研二の笑顔の奥にある失ったものの大きさを、千雪はあらためて思わないではいられなかった。
 

 


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