メリーゴーランド3

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「ええ? 京助さんの愛のこもったお弁当はなかったんですか?」
「あいつの愛は弁当にまでうっとおしいんや。まあ、あれば食うたけど? 今海外出張やからコンビニで買うたんやけど、今一つまずい、いうか」
「それ贅沢過ぎ! 俺なんかコンビニだろうがスーパーだろうが、カップ麺だろうが、腹がすけばガッツリ行きます」
「良太はほんま、どこでも生きていけるわ」
「はい! それだけが取り柄です!」 
 こんな会話も和みのひと時も、いつの間にか戻ってきていた。
 もう二度と笑えるんやろか、とか思うたのに。
 痛みは忘れられるものではないが、時に流されて思い出す頻度が少なくなるのだ。
 だからこんな穏やかに過ごすこともできるようになった。
 だが今でも唐突に、昨日のことのように思い出すことがある。
 特にこんな空の青さを見た日には。
 九月の終わり、あの日、まだ残暑が厳しいながらも、空が高い秋晴れだった。
 すごい青い、溶けていきそう。
 大学の自分のデスクから窓の外を見やると、千雪は心の中で呟いた。
 その頃、一時的ではあったが小煩い後輩の佐久間が、ちょっと千雪に近づくのを躊躇っているらしく、千雪には静かな毎日が有難かった。
 なぜ躊躇っていたかといえば、夏に、千雪の周りでいいことと悪いことが立て続けに起こり、たまたま同級生の黒岩研二と三田村潤が千雪のアパートを訪ねてきた際、同じくアパートに寄った佐久間に、あっさりと千雪のプロテクトでもあるコスプレがバレたからである。
「ま、真夜中の恋人!」
 研二も潤もその頃人生の重要な問題に直面している時で、千雪もコスプレどころの騒ぎではなかったから、千雪を見て、未だにその陳腐な呼び名を口にした佐久間が癇に障った。
「ええ加減にせえ! 今度そのアホな呼び名を口にしよったら、金輪際口なんかきいたったらんからな! わかったか!」
 佐久間はその時文字通り度肝を抜かれたらしく、以来、千雪に声をかけるのも二の足を踏むようになっていた。
 研究室の面々も出張などで出払っており、一人静かでこんな穏やかな日は昼寝でもしたいよな、などと空を見上げていた千雪の携帯が鳴った。
 画面を見ると研二である。
 研二は京都の実家の和菓子処『やさか』の東京出店が決まり、京都に戻って荷物をまとめているはずだった。
「どないした? 荷造り終わったんか?」
 研二が東京に出てきたら、三田村と辻も呼んで研二の門出を祝うのを口実に飲みに行く算段をしていた。
 いつにする、といった連絡だろうと、千雪は思った。
「江美子が………」
 どこか次元の違うところからの声のように聞こえた。

 


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