すごい青い、溶けていきそう。
大学の自分のデスクから窓の外を見やると、千雪は心の中で呟いた。
その頃、一時的ではあったが小煩い後輩の佐久間が、ちょっと千雪に近づくのを躊躇っているらしく、千雪には静かな毎日が有難かった。
なぜ躊躇っていたかといえば、夏に、千雪の周りでいいことと悪いことが立て続けに起こり、たまたま同級生の黒岩研二と三田村潤が千雪のアパートを訪ねてきた際、同じくアパートに寄った佐久間に、あっさりと千雪のプロテクトでもあるコスプレがバレたからである。
「ま、真夜中の恋人!」
研二も潤もその頃人生の重要な問題に直面している時で、千雪もコスプレどころの騒ぎではなかったから、千雪を見て、未だにその陳腐な呼び名を口にした佐久間が癇に障った。
「ええ加減にせえ! 今度そのアホな呼び名を口にしよったら、金輪際口なんかきいたったらんからな! わかったか!」
佐久間はその時文字通り度肝を抜かれたらしく、以来、千雪に声をかけるのも二の足を踏むようになっていた。
研究室の面々も出張などで出払っており、一人静かでこんな穏やかな日は昼寝でもしたいよな、などと空を見上げていた千雪の携帯が鳴った。
画面を見ると研二である。
研二は京都の実家の和菓子処『やさか』の東京出店が決まっており、京都と東京を行き来していたが、その頃京都に一旦戻って、十一月に行われる小夜子と紫紀の披露宴に使う菓子を依頼され、『やさか』総出で作業に当たるため京都の店の面々とも準備を進めていたはずだった。
「どないした? そっちは準備できたんか?」
今度研二が東京に戻ってきたら、三田村と辻も呼んで研二の門出を祝うのを口実に飲みに行く算段をしていた。
いつにする、といった連絡だろうかと、千雪は思った。
「江美子が………」
研二が話しているはずが、どこか次元の違うところからの声のように聞こえた。
江美子が、のあと、千雪は耳が拒否したかのように、研二が何か言っているのがわからなかった。
気がつくと、新幹線の窓から富士山を眺めていて、隣には京助が座っていた。
なんで?
千雪は京助の顔を見た。
それから、あれ、こんなこと前にもあったな。
千雪の頭は古い記憶を探し出して、こんな風に京助に付き添われて京都に向かった日がオーバーラップした。
そうや、あれは父さんの………。
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