メリーゴーランド4

back  next  top  Novels


 まだ明るい車窓から富士山が去り、新幹線はひたすら走り続けていた。
 千雪は無意識に京助の腕を掴んだ。
 すると京助は何も言わずただ千雪の肩を抱いた。
 後で京助にも研二にも言われたのだが、応答がないにもかかわらず千雪の携帯が切れていないことに気づいた研二が、法医学教室に電話を入れて京助を呼び出し、研二から事情を聞いた京助がすぐに千雪の研究室に出向いたところ、千雪は放心状態で窓の方を向いて座っていたのだ、という。
 京助は慌てて千雪をアパートへ引っ張っていき、支度をさせてすぐ、タクシーで東京駅に向かい、一緒に新幹線に乗った。
 そんなことも千雪の記憶にはきれいさっぱりなかった。
 そして次に気づいた時は、笑顔の江美子の写真が飾られた祭壇の前に座っていた。
 菊子が泣いていて、沢口のおばさんも泣いていて、研二が幽霊のような顔をしていて、三田村が怒ったような顔をしていて、桐島が唇を噛みしめていて、沢口のおじさんも時折涙を拭っていて。
 みんなが黒い服を着ていて、江美子がどこにもいなかった。
 千雪は一瞬、江美子はなぜ来ていないのだろうと周りを見回した。
 意識の全てで、その事実を拒否していたのだ。
 京助が隣にいてくれたおかげで、身体は動いていた。
 通夜が終わると、仲間たちが千雪の周りに寄り添った。
 けれどもみんなの声が素通りして、何も聞こえない。
 その時、幽霊のような顔をしていた研二が、「千雪……」と呼んだ。
 呼んだ途端、研二は唇を震わせた。
「研二……」
 一言口にしただけで、千雪は研二の胸に縋りついた。
 研二は声を殺して泣き、千雪はわけもわからず泣きじゃくった。
 その年は、幼馴染も同級生も、近しいみんな誰もかれもが厄介な問題をそれぞれ抱えていた。
 みんなが千雪の家に集まり、能天気な年越しの飲み会をやったのはついこの間のことだったのに。
 あの頃、未来永劫この仲間たちは能天気に生きていくに違いないとさえ思っていた。
 研二は子供が生まれて幸せな日々を送っているのだと思っていた。
 三田村も桐島と付き合っていて結婚も間近じゃないかと思っていた。
 江美子が桐島や住田と『重大発表』をした正月からまだ一年も経っていない。

 なんでや?
 なんで江美ちゃんなん?

 

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村