メリーゴーランド5

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 いつの間にか三田村と京助が結託し、計画が進んでいた日本画家原夏緒の回顧展が、九条美術館で開催されたのは三月のことだった。
 前の年の夏、千雪が京助の兄の紫紀に、九条美術館の館長九条祐紀を紹介されて以来、三田村がプロデュースを買って出てスポンサーを集め、かつ九条の姉が綾小路紫紀、京助の継母で、弟涼の母、佐保子である関係上、東洋グループがメインスポンサーとなって、あれよという間に展覧会は実現した。
 九条美術館では、ちょうどその秋頃予定していた海外の作品展があったのだが、貸出してくれるはずの美術館の要望と噛み合わず、進展していなかった。
 そこへ紫紀を通じて原夏緒の作品展の話を聞いた祐紀は、即座に進展していない美術館との交渉を打ち切り、俄然、館長自ら企画に積極的に動いてくれた。
 ただ、作品の中には地方の美術館が所蔵しているものがあり、その美術館で秋の展覧会に展示される予定となっていたため、苦慮した九条が開催を早めたいと申し出て、三月の開催となった。
 後になって考えると、それらがまるで仕組まれていたパズルのように千雪には思われるのだ。
 最初の違和感は千雪のごく身近なところから起きていた。
 展覧会開催前日には、美術館で関係者を招いてのオープニングパーティが行われた。
 原夏緒の兄で、老舗呉服問屋大和屋の代表取締役である俊一郎、妻の正子、そして一人娘の小夜子らが出席し、千雪の父の妹で千雪には叔母になる佐藤美也子も俊一郎から連絡をもらい、高知から駆け付けた。
 スポンサーである東洋グループのCEO綾小路大長、佐保子夫妻、その次期総帥と噂される綾小路紫紀、京助、涼の兄弟らも出席したこのパーティは、美術界の重鎮や作家たちのみならず財界の大物や業界関係者らまでがこぞって現れ、盛大なものとなった。
 そのためさほど有名ではなかったはずの一人の画家の回顧展にしては、マスコミまでが大挙してPRに加担してくれたおかげで、どちらかというと地味な美術館だったこの九条美術館も名を広めることにもつながった。
 千雪としては母親の回顧展でもなければ、スピーチなど拒否っていたところだが、原一家も展覧会の開催を喜んでくれた手前、何か言わなければならなくなった。
「九条館長を始め、展覧会の開催にご尽力いただいた皆様に感謝を申し上げます。原夏緒が遺した作品に一人でも多くの皆様に親しんでいただければと願っております」
 一分にも満たないような挨拶でマイクの前に立った千雪だが、見渡すと列席者の中に何人か知った顔があった。
 プロデュースした三田村はもとより、三田村と付き合っている桐島恵美も、ドイツで演奏旅行の途中だったが帰国して、この後、記念演奏を披露してくれることになっていた。

 


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