メリーゴーランド6

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 千雪の小説を映画化したプロデューサー工藤高広と俳優の志村嘉人や小野万里子、千雪の恩師である宮島教授夫妻の顔もあり、さらに四月から大学で教鞭をとる犯罪心理学者で京助の悪友、速水克也は早々ともう年明けから東京に居を構えていた。
 綾小路家の親しい知人である洋画家中川幾馬と、その孫でこの時はまだ工藤の関係者ではなかったものの、美人モデルとして知られる中川アスカも列席しており、千雪と初めて顔を合わせたのもこの時である。
 京助の大学の同期でH大研究室にいる大原文子もこの展覧会に合わせて帰国し、時折マスコミに京助と熱愛報道などされている華道家元の娘でやはり華道家でもある五所乃尾理香も顔を見せていた。
 別に誰が来ようと千雪には関係のないことだったのだが、京助だけでなく三田村や桐島の間で散々検討されたのが、千雪のいでたちの問題である。
 ミステリー作家として著者近影では千雪がほぼ面白がってボサボサ髪に黒縁メガネで最初に撮られた写真が使われているが、それだけならまだしも、時折警視庁捜査一課の刑事が事件解決のためにアドバイスをもらったなどという話がマスコミを通じて京助とセットになって広まり、そのいでたちが面白すぎるとわざわざキャンパスまで来て写真を撮っていく連中までいたせいで、小林千雪イコールボサボサ髪に黒縁メガネプラスおじさんジャージに運動靴という悪目立ちでSNS映えするようないでたちが定説化していたからだ。
 お節介な後輩の佐久間にはだから彼女ができないんだと、散々何とかしろと言われてきたそのコスプレだが、そもそもは高校まで女子のみならず追いかけまわされた挙句にこれならば女の子も振り向くことはないだろうと大学デビューしたのがそれだった。
 事実を知ったら佐久間だけでなく世の男どもは怒りそうだが、当時の千雪としては苦肉の策だったのだ。
「いくら何でもジャージに運動靴は却下!」
 桐島が断固として言い張った。
結局、京助によって誂えられたスーツを着用したものの、髪はいくらか撫でつけられ、黒縁メガネはそのままということに落ち着いた。
 スピーチをしていると、ニヤリとした工藤や思わず吹き出している万里子も千雪にはしっかり見えていた。
 スピーチが終わればすぐにでもパーティ会場から抜け出したかった千雪だが、あちこちでいろんな人に掴まり、何だかだと質問を投げかけてくる。
 小説の映画化のことまで聞かれて閉口していた時に、やはり何かしら聞かれたりしていた京助に、九条が女性を紹介しているのがたまたま目に入った。
「日向野奈々子さん。S女学院大を出られて今は西山産業の東京支社で秘書課に勤めておられる。T大理事長の姪御さんになるんだけどね、お父様が旧日向野伯爵家のご出身で外交官をされていてね、お母さまはかの西山産業社長のご令嬢なんだよ」
 人のいい九条は彼の育った環境では当然の紹介の仕方をしたのだろうが、これは京助を苛立たせた。

 


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