髪の長いきりっとした美人だった。
チラリと彼女の顔を見ただけで、千雪はようやくパーティ会場を抜け出して控室に戻った。
ただ、千雪は心の中に小さなさざ波が立つのを感じていた。
当然あってもおかしくない話だろう。
法医学研究室に入り、研究職で助教という立場であっても、綾小路家の次男となれば、いくらでも縁談くらいあるだろう。
付き合っているとはいえ、この先どうするとかの約束をしたわけでもない、千雪としてはするつもりもなかった。
「この辺りが潮時ちゃうか」
一年程前にもそんなことを考えたことがあった。
京助がやたら執着してくれるお陰でうやむやになってしまったが、京助のそういった問題でああだこうだ言い合うのも千雪にはウザかったのだ。
コーヒーを飲んでソファでまったりしていたところへ、バンとドアが開いて入ってきたのは京助だった。
「おい、さっきのは九条が勝手に言ってきただけで、俺は全く関係ないからな」
ウザいと思っていたことを京助が口にする。
千雪はふうとため息をついた。
「俺にも関係あらへんから。そういうウザい話はしとうないし。けど、前から言うてるように、ええ加減身ぃかためるんが妥当とちゃう? 家も家やし、これからいくらでもあんなんあるで?」
すると京助はバンとテーブルを叩く。
「俺はお前と別れる気はさらさらないからな! 男同士だからって俺はいくらでも公表してやるって言ってる。うるさくなるから嫌だと抜かしたのはお前だろうが!」
「コスプレのお陰でやっとこっちで平穏な毎日を送れるようになったんやで? 人に追いかけまわされたり騒がれたりするのはもうまっぴらゴメンなんや!」
「だからって別れる必要なんかないだろうが!」
ところが、またドアが開いて今度は小夜子が入ってきた。
「千雪ちゃん、今の本当なの? 京助さんと付き合っているの?!」
いつもはのほほんとしたお嬢様な小夜子だが、この時ばかりは少し気色ばんでいた。
こんな簡単に小夜子に知られるとはと、千雪はふうっと溜息をついた。
「事実です」
京助が断言した。
「この先はどうなるかわかれへん」
千雪が言った。
「だって千雪ちゃん、京助さんよ? 私だってお噂は耳にしているわ。お仕事は立派でしょうけど、何人も女性がいらしゃるって。こんな方で、ほんとにいいの? 千雪ちゃん」
「やから、わかれへんし……」
「んなもん、マスコミのでっちあげだ。何人も女性なんかいらっしゃらないんだよ! 別れるつもりはないってるだろ!」
千雪の言葉を遮って京助が怒鳴る。
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