小夜子がフランス語だけでなく英語も日常会話くらいは楽に話せることを助かったと紫紀が思ったのは、結婚してからだ。
紫紀にとっては小夜子が英語やフランス語を話せなくても結婚するのに何の支障もなかったが、結婚してみたら、言葉も喋れるし、海外の人間を前にしてもものおじするようなこともない。
彼女と結婚したのって、結構儲けものだったらしいと、紫紀はこっそり喜んだ。
夕食は永福町の泉水を呼んで、懐石料理に鮨を合わせてもらうことになっている。
そこは、臨機応変に頼めば色々やってもらえるのが有難い。
「京助さんがいらっしゃいました」
来客用のダイニングルームでは、既に席について、食事を始めようというところだった。
一応それなりのスーツを着て、マギーを始め三人の男たちとハグを交わしたが、紫紀は京助が精彩を欠いているのを見て取った。
口数も少なく、客人から話を振られても、ええ、とか、いえ、くらいしか答えないから、話が途切れてしまう。
京助が機嫌が悪そうなのを気づいた小夜子は、京助の代わりにマギーたちが興味を持ちそうな東京の名所の話などで場を沸かせた。
ただし、やはり一番の話題は紫紀と小夜子の結婚のことになった。
マギーがパリでの結婚式がどれほど素敵だったかとを延々と話し続け、日本での披露宴にも出席したかったが、向こうでどうしても外せない仕事があり、残念だったとヘンリーとともに強調した。
さらに、どうしても若い男たちがいれば、恋人の話になっても仕方がない。
テリーが今付き合っているのが同じ研究室のブロンドの真面目な女性だと言えば、バーニーは大学時代から付き合っていた彼女と別れて一カ月もしないうちに、社内で出会った赤毛の可愛い女性と付き合い始めたところだといいながら、容姿から趣味から身長の高さから、履いている靴のブランドのことまで微に入り細に入り面白おかしく紹介してくれた。
「今度は一緒に日本にくるよ」
そんなことを付け加えたので、みんなから囃し立てられた。
流れで話題が京助に向けられたからといって、いつもの京助であれば軽くいなすことくらい朝飯前だったはずだ。
ただ、紫紀には京助がかなり不機嫌になっているのがわかっていたので、何とか京助からその手の話題を遠ざけようと会社の話に持って行こうとしたが、先にマギーが言った。
「京助はボストンにいた頃もすごくモテてたし、こちらでも素敵な彼女がいるんでしょ?」
マギーには全く悪気はなかった。
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