その時、部屋のチャイムが鳴った。
九時を過ぎている。
それにドアチャイムだ。
宅配業者ではないだろうし、来客の予定は聞いていない。
ただし、オートロックとはいえエントランスのドアは下手をすれば住人の誰かに続いてなら入れてしまうが、その前に管理人室がある。
「何や、研二、鍵忘れたんか?」
またチャイムが鳴ったので、千雪はドアを開けに立った。
「あれ?」
ドアを開けるとひどくなった雨が吹き込んできそうだったが、誰も立っていない。
首を傾げて何気に横を見た千雪は息をのんだ。
「……京助」
ドアの横の壁に凭れて立っていたのは何週間ぶりかで見た京助だった。
「お前、ずぶ濡れやないか!」
「千雪、帰って来てくれないか」
「え……?」
「お前が勝手に別れるって言っただけで、俺はそんなつもりはねぇから」
京助はそう言うと、千雪の腕を掴んだ。
「オヤジには言った」
「はあ?」
「俺の付き合っているのはお前だって」
「ちょ………京助!」
「オヤジが認めようが認めまいが関係ない。何なら縁も切ってやっても構わねェ。俺はお前しかいらねえ」
激高するわけでもなく、淡々とただはっきりと、千雪を見つめて京助は言った。
千雪は言葉がすぐには出てこなかった。
京助は千雪の腕を掴んでいた手を離すと、「待ってるからな」と言い残して踵を返した。
「…京助……」
階段を降りていく京助はすぐに見えなくなった。
千雪はしばらくドアを開けたまま立ち尽くしていたが、吹き込む雨に気づいてようやくドアを閉めた。
思考回路がショートしたように頭が働かない。
いや、どこかで自分でショートさせているのはわかっていた。
そうしないと、いろんな感情が前面に出てきてしまう。
「アホや、京助」
時折、そんな風に感情の欠片が千雪を苦しませる。
「何でや……俺のことなんか……もう、かまうなや……」
それに自分のことで京助が苦しんでいることを、さっきの京助の表情からも見て取れた。
怒って誰か女と一緒にいたんやなかったんか。
京助は京助のテリトリーにいる誰かと一緒にいるべきやろ。
あないなひどい顔、させるつもりはなかったのに。
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