ぼんやりと佇んでいた千雪は、ガチャと音がしてドアが開いたのに気づいて振り返った。
「雨、ひどいで」
研二はそんなことを言いながら入ってきた。
「あ、風呂、湯張っとったんや!」
千雪は慌ててバスルームに飛び込んだ。
湯は自動的に止まっていた。
「ハイテクやなあ」
「今さら何を感心しとんのや」
冷蔵庫に買ってきた牛乳やチーズ、ヨーグルトなどをしまいながら、千雪のボヤキを聞きつけて笑う。
「段々ついて行けへんようになるわ」
「何も考えンとボタン押したらええんちゃう?」
「まあな。濡れたやろ、風呂、入ったらええ」
「ほな、先もらうわ。横殴りの雨やったから、かなり濡れてもた」
バスルームに入って行く研二の背中を追いながら、千雪はずぶ濡れで立っていた京助のことを思った。
あいつ、すぐ帰ったんやろな。
そんなことを考えてから、自分が京助を心配しているなどということは身の程知らずだと千雪は自嘲した。
雨はなかなかやむ気配がなかった。
小夜子はぼんやりと窓の外に目を向けていた。
大長がコーヒーが出たところで中座してしまい、晩餐はそのまま終了した形になった。
佐保子や紫紀がマギー一家をとりなして、大長や京助の失礼を謝罪したが、マギーもヘンリーも、兄弟たちも事情はわかったからと笑い、二人が早く分かり合えればいいと言って部屋に戻って行った。
小夜子は立ち上がっておやすみなさいと言葉を交わしただけで、佐保子に続いて部屋を出て行こうとした。
「小夜子さん、ちょっといいですか」
紫紀に声を掛けられて小夜子は振り返った。
「何ですか?」
「そんな切り口上で」
紫紀はハア、とため息をついた。
「ちょっと座りませんか」
小夜子はちょっと紫紀を斜に見て、椅子に腰を降ろした。
そんな小夜子を見ながら紫紀は徐に口を開いた。
「さっきも話したように、父は京助の態度のことを怒っていただけで、京助と千雪くんのことをどうこう言うつもりはないんですよ」
紫紀は噛んで含めるように小夜子に言った。
「というより、薄々は気づいていたんでしょう。千雪くんも一緒の食事会の時には、おそらく父も決定的だと思ったはずですよ」
「食事会の時? 結婚式の前の?」
小夜子は顔を上げた。
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