「あの時、千雪くん素で現れたでしょう? 滅多に動揺しない父がえらく動揺してるのが可笑しくてね」
「動揺してらしたの? お義父様が?」
小夜子は小首を傾げた。
紫紀は笑った。
「そう。あの時、千雪に驚いた父は最後まで千雪くんをまともに見なかったんですよ。驚きすぎて」
「そんな風には思えませんでしたけど」
「いや、昔、九条の叔父が原夏緒さんを連れてきた時がオーバーラップしたんでしょう」
「九条さんと叔母の縁談があったことはお聞きしてるけど破談になったんですよね?」
「ええ、小林教授が夏緒さんを駆け落ち同然に京都に連れて行ってしまわれたので」
あら、と小夜子は微笑んだ。
「俺が小夜子さんを紹介した時も多少は驚いたようだけど、小夜子さんのことは原夏緒の展覧会の時などで父も知ってたし、さすがに夏緒さんにそっくりな千雪さんが登場したから驚きを通り越したんだと思うよ。三十数年親子やってますからね、取り繕うのがいくらうまい父親でも、俺にかかったら一目瞭然」
紫紀はじっと小夜子を見つめた。
「というわけで、小夜子さんがキレなくても、あとは父と京助がちゃんとお互い意思の疎通を考えれば大丈夫という話」
京助と千雪二人の状況については第三者の話過ぎてまだどうなるかわからないと、紫紀は小夜子には話さなかった。
千雪が書けなくなったことについても、同じく、千雪本人と話したわけではないと保留にした。
口にしたら小夜子のことだ、心配でまた何かとんでも発言をする可能性がある。
ただ、放っておくわけにも行かないだろうとは思っていた。
どう動くかが問題だな。
紫紀は自分の席の前にあったクレームブリュレを持って来て、小夜子の隣に座った。
「せっかくのクレームブリュレ、さっきの騒動で食べ損ねてた。美味しいんですよ、泉水の作ったやつ。食べませんか?」
そう言うと、紫紀は早速スプーンですくって口に運ぶ。
小夜子は思わず笑い、同じようにクリームブリュレにスプーンを入れた。
「……美味しい」
「でしょう?」
後片付けをしようとやってきた藤原と公一は二人が仲良さげにクリームブリュレを食べているところを垣間見ると、黙って回れ右をして戻って行った。
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