そんなことを言われてもな、と研二は思う。
「あら、テレビで拝見した店長さんでしょ?」
「実物の方がずっと男前ね!」
どうやら年配の女性にかかっては、研二などまだまだひよっこということだろう。
かえって自然にクスリと笑みが浮かび、考えすぎることなく注文を取ってバックヤードに戻る。
「よう」
営業先に出向いた帰り、三田村が店に寄ったのはそんな時だった。
「あの、黒岩研二が、接客やなんて、世も末やな」
妙な感心の仕方をする三田村に、研二は、からかいに寄ったのか、とメニューとお茶を置いた。
「千雪は? 相変わらずひきこもってんのんか?」
問われて、一瞬、研二は間を置いた。
「京助さんとこ、戻った」
「はあ?」
「何日か前、京助さんが千雪を訪ねて来はって」
「お前そんで、すんなり行かせたん?」
声を落としながらも納得いかないようすで、三田村は言った。
「すんなりも何も、千雪が決めたことやろ」
あの朝、ちゃんと京助と話した方がいいと千雪に言った。
夜、帰ると、カードキーがドアの傍にあった。
千雪が置いて行ったものだ。
結局、戻ることにしたのだと、研二は思ったが、一抹の胸の痛みを抑えるのがきつかった。
三田村は研二の話には納得いかなかったが、コーヒーとあんみつを食べて店を出た。
研二は千雪を好きだったにも拘わらず、真由子と結婚してしまったという負い目があるのだろうと三田村は思う。
第一頑固でとにかく千雪ファーストなのだ、あの男は。
優しい男だと見えるが、実のところ、千雪以外はその他大勢くらいにしか思っていないだろう。
真由子と結婚したことはいくら押し切られたとはいえ、するべきではなかった。
それは本人もわかっている。
ただ、子供たちには何の罪もない。
そこが難しいところだ。
「にしても、ほな、千雪、アパート帰ったんか?」
三田村は千雪の携帯を鳴らしてみたが、やはり電源は入れていないらしい。
書けないと言っていたが、どうなんだ?
大学はしばらく休みを取ると言っていたし、千雪が携帯の電源を入れないのであれば連絡の取りようがない。
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