「いや、研二が、千雪は京助さんが来はったんで、京助さんとこに戻った、言うてるんですが」
「アパートにいるってのか?」
京助の声が大きくなる。
「実は今、アパートの前に俺いるんですが、チャイム押しても出えへんし、京助さんちょっと部屋あけてもらえませんか?」
すると京助は物も言わずに携帯を切った。
「京助さんも焦ってはるいうことは、研二のとこ出てから千雪のやつ京助さんにも逢うてないいうことか? 部屋で寝てるんやったらええんやけど」
やがて京助が足早にやってくるのが見えた。
京助は鍵を開けてアパートの中に入った。
「千雪、いるのか?」
三田村も続いて入ったが、一DKの狭いアパートには隠れようもない。
風呂のドアも開けてみたが、人のいた気配はない。
「研二が、千雪が俺のところへ戻ったと言ったのか?」
「ええ。ちょっともう一度研二に確かめてみます」
言いながら携帯をプッシュしていた。
「仕事中悪いな。千雪のことやが、京助さんとこには戻っとらんみたいやで? アパートにもおらんし」
「え…………ほな……どこに…? 京都に帰ったんか?」
研二の言葉が固くなる。
「ひょっとして小夜子のとこか?」
三田村が研二と話しているうちに京助は携帯で小夜子を呼び出した。
「千雪が小夜子さんとこに行くみたいなことを言ってたんですが、そっち行ってますか?」
「千雪ちゃん? 来てないわよ。なんかもう随分長いこと会ってないし、たまにはうちの方も覗いてって伝えてくださる?」
小夜子の言葉からは千雪が原の家に行った可能性は消えた。
「今、京都のダチに、千雪のうち行ってみてもろてます」
京助が携帯を切ると、三田村はそう言ったが、江美子のことがあってから千雪が京都に行くとは思えなかった。
京助にも三田村にも五分程も長く思えた。
三田村の携帯が鳴って、京都の同級生井原から、「門閉まってるし、裏から覗いても人がおる気配ないで」と言ってきた。
京助はすると階段を駆け下りる。
三田村も後に続いて、駐車場の車に乗り込む京助に、「俺も行きます」と言うと、助手席のドアを開けた。
京助のマンションに着くまで、二人は言葉がなかった。
京助はエントランスの前に車を乗り捨てて、中に駆け込んだ。
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