メリーゴーランド318

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 冬の冷気に晒された日本海は鈍色に渋く輝いていた。
「寒い~! もう、店に戻ろうよ」
「待てよ、写真撮るから」
「早く撮ってよお!」
 象潟といえば秋田県にかほ市にある景勝地として有名だが、さすがに十二月ともなれば、この道の駅を訪れ、海風にさらされようという観光客は多くはない。
 たまにこんな若いカップルが物珍し気に写真を撮ったりする以外は。
「ねえ、あの子、大丈夫かなあ」
 女の子が、海側の公園の突端でぼんやり肩を竦めながら海を見ている青年を目で示した。
「ああ?」
 金髪が帽子からはみ出している彼氏らしき男は振り返った。
「なんかさっきからずっと、いわくありげじゃない?」
 心配そうな顔できれいな茶色の髪が風にさらされるのを気にしながら女の子が言った。
「こんな浅瀬だぞ? 飛び込んだって服が濡れるだけだろ」
 彼氏の方はそれでも首を傾げながらその青年に声をかけた。
「あ、すみませーん、ちょっと写真撮ってもらえませんか?」
 その声に振りむいた青年を見た途端、彼氏は固まった。
「え、なに、女子? メタクソきれー」
 その言葉は隣の女の子に小突かれて尻すぼみになる。
「ええよ、シャッターおせばええん?」
 柔らかい笑みに、女の子は杞憂に終わったらしいとほっとした。
「イエイ!」 
 舌だしピースサインの彼氏と頬をくっつけた女の子を前に青年はシャッターを押した。
「ありがとお!!! この上に展望風呂あるんだよ、寒いから一緒にいかない?」
 女の子に誘われたが、青年は「おおきに。俺もちょっとここ写真撮っていかんと」という。
「ここ?」
 女の子は訝し気に面白みもない風景を見渡した。
「西施像が夕陽に映えるらしいねんけど、この天気やと無理やな。一応芭蕉の句碑は撮らんと」
「アハハ、雪降るみたいだよ」
 じゃあね、とカップルは去っていく。
「セイシ? バショー? って何? でもすっごくきれーモデルとか?」
「男にしとくのはもったいないくらい……」
 コソコソ話とはいえないくらいな声でカップルが言い合っているのが聞こえ、また彼氏が小突かれるのを青年は見て苦笑した。

 


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