研二が千雪のアパートに駆け付けたのは、京助に連絡をしてから三十分程も経っていなかった。
チャイムを鳴らすと、「開いてるぞ」という京助の声がした。
「すんまへん、俺、てっきり、千雪は京助さんとこへ戻ったんやと思い込んどって」
開口一番、研二が悔し気に言った。
「何も言わずに消えるのが悪いんだ。あのバカ」
「千雪が行きそうなとこ、ないんですか?」
京助は険しい表情で、「いや」と答える。
「心当たりを当たってみたが、いない。お前こそ、どっか、わからねぇのか?」
「京都のダチにも千雪のうちのようす見てもろたけど、誰かいる気配はないらしうて」
「トレッキングシューズと冬用ジャケットなんかを持ち出している。この辺りは雪も降ってねえし、どっか北の方に行ったんじゃねーかとは思うんだが」
「北の方?」
「てんで漠然としてわかりゃしねぇ」
京助は吐き捨てるように言う。
その時、研二の携帯が鳴った。
「ああ、今、千雪のアパートに……え? 北海道の最北端?」
相手は三田村だった。
思い出したことがあると言って電話をくれたのだ。
「冗談や思うとったけど、そんなことを口走ってたで、千雪!」
「宗谷岬、とか?」
「具体的には。けど、あの時はかなりぼんやりしてたよって、聞き流したんやけど」
「宗谷岬がどうした?」
研二が携帯を切ると、京助が勢い込んで聞いた。
「三田村が、千雪が前に、北海道の最北端に行きたいとか言うてたて」
「宗谷岬に何の用がある?」
「けど、寒い方面行く準備して向かったんやったら」
「行ってみるか」
やみくもに動いても仕方がないだろうが、この際少しでも可能性があり、場所の手がかりがあるのであれば、京助も研二も動かずにはいられなかった。
京助は研二を自分の車に乗せてとりあえず羽田に向かった。
「俺があいつを追い詰めたのかも知れない」
しばらく二人とも無言のままフロントガラスの向こうを睨み付けていたが、ハンドルを切りながら京助がボソリと言った。
「いやあいつがバカなマネをするはずもないし、その理由もないが、書けないという原因は何か精神的なもので、江美子が亡くなったことにもあるとは思ったし、だからこそ千雪を追い詰めるようなことはしないようにと、思っていたんだが……こないだ、お前んちに行って千雪に帰ってこいなんて、言っちまった」
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