何も考えずに歩ければいいのだが、ふとした弾みにいろいろ考えてしまう。
「とにかく、大垣まで行ったら、京都に戻ってちゃんと江美ちゃんとこ行かんと」
それが千雪の目的の一つでもあった。
江美子との唐突な別れは、どうしても千雪の中で受け入れがたいものであり、時間は経っているにもかかわらず、千雪の動きを止めてしまう一つの要因でもあった。
母が逝った時は、父がいてくれた。
父が逝った時、研二は駆け付けてくれたけれど、ずっと一緒にいてくれたのは京助だった。
大切な人が逝く時に心を閉じてしまうと、なかなかそこから出られなくなる。
同級生らとともに江美子の早すぎる死を悼んだが、千雪にとって研二と一緒に幼馴染で兄妹のように過ごしてきた何年もの時間を過去のものにするなど考えられなかった。
だが、生きている以上は前に進まなければ。
京都に戻って、自分で向き合わなければと、そう決めていた。
上越市に入り、『文月や六日も常の夜には似ず』を詠んだという聴信寺から海に近い琴平神社に足を運ぶと、ホテルを探し一泊することにした。
文字は書きたいとはまだ思えないのだが、自分の中での思いが少しずつ心のそこかしこに顔を出し始めている。
「あ、菊ちゃん、よかったつかまって」
ホテルの部屋から電話をしたのは、京都の菊子だった。
「千雪くんの電話やったらお座敷なんか二の次やわ」
コロコロ笑う菊子は、ずっと昔からの菊子だった。
「え、明後日の次? 京都戻るん?」
「ちょっとな。その時、江美ちゃんに線香あげさしてもらお思うとる」
「……そうか……。うちはもう、江美ちゃんとこのおばちゃんすぐ泣かはるし、もらい泣きばっかの毎日やけどな、ほんでも、久美ちゃんがすくすく育ってるから、うちがしっかりせんとて、もう、気合入ってはるわ」
京都を離れている千雪にしてみれば、江美子のことはまだ現実とは思えないのだが、考えれば京都にいる菊子や江美子の家族は現実を受け入れるしかないのだ。
何より、江美子の子どもが成長しているのだ。
「俺なんか現実逃避ばっかや。菊ちゃんえらいわ」
「アホやな、えらいことなんか何もない、仕方ないことや思うしかないんよ」
「…うん」
「それより、あのバカ旦さんが、最近おかしなりはって」
「どないしたんや?」
菊子の言葉に千雪も気色ばむ。
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