「いや、それが」と言って笑いながら、「やたら仕事に精出しはって、バカ旦さんから小バカ旦さんくらいなとこやし」と菊子は言う。
「何や、おどかすなや、また何かあったんかと思うがな。ほんなら、ええやんか、子供のために頑張ったはるんやろ、ちょっとは心入れ替えはったわけや」
京都に行ったら菊子と会う約束をして携帯を切ると、少しばかり気分が浮上した。
やさかにも顔出してこんとあかんな。
小夜子の披露宴の前に研二の両親に久々会ったのだが、研二も真由子も孫もいなくなって、寂しい思いをしているのではないかと千雪は思いやる。
しばらく研二と一緒に暮らしていたことなど話せるものではないが、隣の江美子の両親もそうだが、千雪にとってそれこそ子どもの時から可愛がってくれているおじちゃんおばちゃんなのだ。
近所の住人とは千雪の父克己や祖父や遡って代々の付き合いだし、千雪の父と江美子の父親は高校まで先輩後輩の仲で、ゆくゆくは千雪と江美子を一緒にさせようなどという話もしたことがあったらしい。
近所でもよく知られた話で、実際、千雪と江美子はそうなってもおかしくない仲の良さだった。
研二はそんな二人のお兄ちゃん的存在、と周りには思われていて、子供の頃は三人いつも一緒にいた。
ただ、人の思いばかりはそう簡単にそんな昔の思惑通りになるものではない。
江美子は傾きかけた家のために、同級生からバカ旦さんと陰で呼ばれるようなチャラ男と結婚し、子供を残して他界してしまった。
研二は大学を卒業してすぐに真由子と結婚し子供までできたのだが、結局別れることになって上京した。
高校の時までにお互いちゃんと思いを打ち明けへんかったから、大人になってこじれるんや、と三田村なんかは言うのだが、この街でのいろいろな思いを考えると、どうしようもなかったのだと、千雪は思う。
けど、そんなんもみんな、過去の話になってしもた。
高岡の有磯海、金沢の長久寺、福井県の永平寺、敦賀の氣比神宮、と駆け足で芭蕉の足跡を巡り、大垣では奥の細道結びの地記念館を一通り見た後、千雪は夕方には京都に入っていた。
本当は金沢あたりで一泊してゆっくり歩いてみようかとも思ったのだが、何となく気が急いてしまった。
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