メリーゴーランド330

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 数カ月ぶりの我が家はしんと静まり返り、千雪は家の横に車を停めた。
 父親が生前、古いカローラを停めていたが、一台分ほどのスペースだ。
 あまりに年式も古く、車検も高くなりそうだと京助に言われて、結局父親の車は廃車にしたが、ずっと父親が通勤に使っていたものだ。
 カラカラと木の門をくぐると小さな庭もきれいに草を刈ってあり、樹々は剪定されている。
 玄関の戸を開けて中に入って灯りをつけると、廊下もきれいに磨かれて、いつでもそこに居られるようにしてある。
 管理を頼んでいる家政婦の倉永さんが、月に二度は空気を入れ替えたり、布団を干したりしてくれていた。
「倉永さんには金沢の九谷焼、思いついてよかったわ」
 土産物屋で見てから、倉永に何か買っていかなくてはと思い出したのだ。
 父親の書庫や書斎の管理は、今はK大准教授となった島崎に頼んでいるが、倉永つながりで島崎には地酒を買った。
 家の匂いは古い記憶を思い起こさせる。
 一人になった今も、このうちには父や母が生きていた記憶が残っているのだ。
 畳はそのうち表替えをした方がいいが、その前に居間の古くなっている絨毯を取り替える必要があるな、などと思いつつ、コートを脱いでハンガーにかけると、千雪はキッチンで湯を沸かした。
 戸棚からコーヒー豆を取り出し、ミルで豆を挽くと、コーヒーフィルターをマグカップに乗せて湯を注ぐ。
 冷蔵庫はドアを開け放してあるので、ドアを閉めてプラグをコンセントに繋ぐ。
 何日滞在するとかも全く考えていなかったが、ふと寒いのを思い出したようにエアコンを入れた。
「一気に来てもうたなあ」
 ぼんやりと呟いた。
「今夜のメシ、どこかで調達せなあかんなあ」
 さすがに一日中歩いたり車を運転したりしていたので、疲れも出てきた。
 とその時、バタバタと音がして、次にはドアチャイムが何度か鳴った。
「やっぱ、千雪くん、明日来るんやなかったん?」
 出てみると、すっかり芸妓の衣装をまとった菊子が立っていた。
「うん、金沢あたりで泊まろうか思うとったんやけどな、一気に来てもうた」
「京助さんも一緒なん?」
「いや、ひとりやで」
「せえけど、ド派手な車やん」
 なるほどあの車はやはり目に付くわけだ。

 


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