「何や、めんどうごとにしとんの千雪くんやないの。高校ん時は、何でもビシッて白黒つけてくれたん千雪くんやのに、自分のことになると、あかんやん」
菊子にそう言われて千雪は不貞腐れたように頬杖をつく。
「どうせな」
「何、すねてるん。あんなカッコええ二人を振り回せるやなんて贅沢や! あ~あ、うちもそんな幸せにあやかりたいわ」
「いくらでも変わったるで?」
「よt! 魔性の千雪ヒメは、それやないと! 余裕の上から目線!」
「やめや、ヒメ」
千雪は軽く菊子を睨む。
「そうかて、裏でそない呼ばれてたし? うちらなんかに目ぇもくれず、千雪くんに夢中やった男どもわんさかいたし。まあ、傍に研二くんいてたからなあ」
「ウゲ」
げんなりと、残りのビールを互いのグラスに注いで、千雪はビールを飲んだ。
「菊ちゃん、時間ええの?」
「わ、も、こないな時間! ほな、明日、江美ちゃんとこ、うちも一緒に行くし、連絡して」
「わかった」
菊子はバタバタと座敷を出る。
「あとは、千雪くん次第やで?」
そう言い残して菊子は襖を閉めた。
呉服屋の店舗とは軒続きになっているが、小林家側にある沢口家の玄関は、少し奥まったところにあった。
翌日、昼過ぎに菊子と一緒に隣を訪れた千雪を、江美子の両親は揃って出迎えた。
二人とも感極まって涙ぐみ、ようきてくれた、ようきてくれたと、千雪を招き入れた。
仏壇に手を合わせ、あらためて小さな写真に収まった江美子の笑顔を見た途端、千雪も唇を噛んだ。
やがて千雪も昔からよく知っている大きな座卓へ促されると、沢口家で長く勤めている水嶋さんがお茶や菓子を運んできた。
「ほんまに、ウソみたいですわ……ほんまに」
七十近い水嶋は、千雪はもちろんのこと、千雪の両親のこともよく知っていて、千雪の顔を見た途端、ポロポロと涙を流して、慌ててエプロンで目頭を押さえた。
急に静まり返った部屋で、千雪は一つ溜息をついた。
「身体が弱いうちより先に逝くやなんて………」
江美子の母親も菊子も既につられて泣いて、しばらく言葉が出てこなかった。
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