メリーゴーランド336

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 水嶋の言葉がまさに皆の心を代表しているようで、千雪も目を赤くして、やはり何をどう口にしたらいいのかわからなかった。
 そんな沈黙を破ったのは、赤ん坊の泣き声だった。
「目ぇ覚ましたみたいや、久美子」
 江美子の母親がそう言いながら立ち上がると、ややあって赤ん坊を抱いて現れた。
「久美子、お隣の千雪ちゃんが会いにきてくれはったで」
 泣き止んだ久美子は何やら機嫌がいいらしく、千雪が顔を覗くと、キャッキャと笑う。
「久美ちゃんも嬉しいんやなあ、千雪ちゃんに逢うて」
「もう、こない大きなったんや」
 江美子の葬儀の時はまだ病院にいたので、千雪が久美子に逢うのは初めてだった。
「けど、江美ちゃんまんまやない?」
「そやろ? もうクリっとした目ぇとか、同じやもん」
 菊子も千雪の横から、抱かれて笑っている久美子を覗き込む。
「江美ちゃん、ほんま、えろ若返ってしもたな」
 千雪が言うと、泣いていた江美子の両親も菊子も笑顔になった。
 するとそれが分かったかのように久美子がキャッキャと笑った。
 二人が暇を告げようとしたその時、店の方から和服の男が現れた。
「小林さん、今日はどうもおおきに、有難うございました。江美子も喜んどると思いますわ」
 散々同級生の間ではバカ旦さんと陰口をたたかれていた江美子の夫の慶一だった。
 葬儀の時以来で、千雪は言葉も一言かわした程度だった。
 するとたたきに立つ千雪に慶一は深々と頭を下げた。
 千雪も頭を下げたが、その時、菊子がバカ旦さんが小バカ旦さんくらいになったと口にしたように、亡くなった江美子と娘の久美子のために頑張っているという気概を感じた。
「バカ旦さんな、肩を持つわけや全然ないけど、江美ちゃんとの結婚が家同士の決め事で、江美ちゃんには好きな人がおるて、知ってはったこともあったらしいわ、バカやっとったんは」
 沢口家を出てしばらく歩いてから、菊子が言った。
「まあ、大学時代もチャラ男の遊び人やったみたいやから、今さらな話やけど。おばちゃんがこそっとうちに話さはったん。慶一さんの親いうんが大阪で大きな商社の社長はんなんやけど、昔、まだ小さい会社で潰れるか潰れんかいう時に、江美ちゃんとこのおっちゃんに助けてもろたことがあって、そのお返しいう意味もあって江美ちゃんとこが傾きかけた時に三男坊の慶一さんとの縁談を持ち込んだらしいわ」
 それは千雪が初めて聞く話だった。

 


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