メリーゴーランド337

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「お返しいうだけやったら、何も縁談にせんでも」
「それがその話があった時、その商社で営業やってはった慶一さんも店に来たはって、江美ちゃんに一目ぼれやったみたいやわ。そんで向こうの社長はんが縁談いう話にしてもたみたいで」
 そうなると、断ったら店が傾くと思うてもしかたないわな。
「おばちゃん、身体弱いしな、江美ちゃんも結婚決めたてうちに言うてきた時、サバサバしとったわ。けどな………」
 菊子が口籠る。
「うちは千雪くんと研二くんのことが心配なんよ、て」
 今更ながらにその言葉は千雪の胸に深く重く響く。
「それがな…」
 一つ大きく菊子はため息をつく。
「江美ちゃんと千雪くんが昔から仲ようて、当然結婚すると思うとったとか何とか、結婚式が終わってしばらくしてかららしいわ、慶一さんの耳に入ったん」
「え?」
 千雪は菊子を振り返った。
「ほな、慶一さんをバカ旦さんにしたんは、俺も原因があるいうことか?」
「ていうか、あれや、慶一さん、江美ちゃんが好きなんは千雪くんなんやて、思い込まはったんやな」
「なんや、それて………」
 どこぞで聞いたような話だと、千雪は大きく息をついた。
 俺はこの街にいてない方がよかったみたいや。
「千雪くんは何も悪うないんよ、勝手な噂と思い込みなんや。現に、慶一さん、江美ちゃんの真摯な思いをちゃんと受け止めはったから、今、店に残って久美ちゃんを立派に育てるんやて、頑張ったはるんや」
 そうか。
 あんなに頭をさげたのは、そういった色んな思いが慶一の中で消化されて後のことなのか。
 千雪はあらためて思う。
「いつまでこっちにおるん?」
 千雪の家までくると、門の前で菊子が聞いた。
「うん、せやな、もう二、三日と思うとる」
「わかった。ほな、また」
 千雪は一人でもう少し考えたかった。
 ここのところずっと頭の中に靄がかかったようで、いや、その向こうにはおそらく答えか、或いは先へと進む道標があったかも知れないのだが、あえて千雪はそれに背を向けた。
 答えを出すことを放棄し、できれば居心地のいい研二の部屋でずっと素籠りのまま居たかった。
 京助が尋ねてきて、研二は京助と話せと言ったあの時、千雪は一人で素籠りから抜け出して、靄の向こうに行かなければならないのだと思い知った。

 


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