負けず嫌いの千雪が伊藤の言葉に怯んだわけではない。
伊藤に限らず、それが誰であろうと、自分は友人一号でいなくてはならないのだと、でないと小夜子の人生までも狂わせてしまうかもしれない。
それ以前に、京助が自分に執着することで、それこそ京助の人生を狂わせてしまう。
せや、俺の好きなんは研二なんや。
研二は何もかも失くしてもうたんや。
元に戻るだけや。
元に戻りたい。
もう、俺のことでみんなを振り回すとかしとうないしな。
千雪はコートを羽織ると、アパートを出てタクシーで病院に向かった。
「千雪ちゃん? 今どこなの?」
病院につくと小夜子の携帯を鳴らした。
「今、病院着いた」
千雪はエレベーターで小夜子の教えてくれた病室のある階で降りた。
「心配したのよ? 千雪ちゃん、携帯切ってるし、京助さんが事故にあったとか言うし、もう心臓がいくつあっても足りないわ」
病室のドアを開けるなり、小夜子が笑いながら文句を言った。
「ああ、かんにん」
千雪が病室に入ると、「京助のお陰でスケジュールが狂いっぱなしだ」と言いながら紫紀は小夜子と部屋を出て行った。
速水と佐久間は大学に戻ると言い、三田村は仕事を抜け出してきたからと部屋を出た。
急に二人きりになって、しばし沈黙があった。
「何やってんね、包帯ぐるぐる巻きやん」
千雪はあちこち巻かれている包帯を見て言った。
「るせえな、あのクソトラックが信号無視して突っ込んできやがったんだよ」
千雪は椅子に座り、苦笑した。
「骨折もあれへんのやろ? 超ラッキー?」
「俺の身体能力のお陰に決まってるだろうが」
「よう言うわ」
京助はフンと鼻で笑う。
「まあ、今日だけはおとなしゅうしとるんやな」
千雪は立ち上がった。
「それで、芭蕉追跡行脚は終わったのか?」
「まあ。お大事に」
ドアを開けながら千雪は言った。
「……ああ」
京助は何か言いたげな顔で、ドアが閉まるのを見た。
それから五分もたたないうちにドアがノックされた。
「元気そうですね」
研二が笑みを浮かべながら入ってきた。
「悪いな、仕事中だろ。今夜一晩ここで寝て明日の朝には帰る。あれ、千雪は?」
「え?」
研二は怪訝な顔をした。
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